第4話「体験キットvol.2」


インターフォンの音がリビングに響く。

それから男の人の声。


「◾︎◾︎◾︎◾︎急便でーす。イデア様宛のお荷物ですぅ」

「今手、離せないからアンチちゃん出て〜」


そう言いながらイデアちゃんはテレビゲームを大層忙しそうに遊んでいた。

まぁいつものこと。


「はいはい」


私は立ち上がって、鍵を開けて、ドアを開く。

一瞬の眩しさが通り過ぎ、そして。


「こんにちはぁ。こちらに印鑑お願いしますぅ」


帽子を深く被った配達員が指差す。

少しはみ出したけどしっかり押した。


「ありがとうございましたぁ」


足早にトラックへ乗り込む姿を見送る。


「イデアちゃん、これ何?デカくて重いんだけど」


大きなダンボール、それに見合った重さを添えて。


「あ!届いたんだ!」

「また変な物買ったわけ?」

「違うよ、プレゼント応募のやつ!」

「へぇ、何に応募したの?」

「開ければ分かるよ〜」


イデアちゃんは大層嬉しそうにダンボールを破いて、開けて、投げ捨てる。

散らかった物はもちろん、私が片付ける。


「てれーん!『世界創造体験キットvol.2』でーす!」

「…なにそれ」

「名前の通りの体験キットだよ?」

「…いや、うん。それは分かるんだけどさ、どういう…やつ?」


まったく、また変な物を。


「また開ければ分かるよ〜」


イデアちゃんは真っ白な箱を、また壊して投げ捨てる。

そして私が片付ける。


「アンチちゃん説明書あるよ」

「おっ、どれどれ…」


ふむふむ。

えーと、ああ、はいはい。

そういうことね。


「へぇ、凄いねこれ。結構簡単に作れちゃうんだ」

「ねっ!凄いね!」


イデアちゃんは興奮気味な口調で早速取り掛かる。


「えーと、まずは…ガラスケースを組みたてます…」


説明書を音読しながら組み立てるイデアちゃんの姿は、夏休みの宿題の工作を作る小学生みたいだった。

ちょっとかわいいかも。


「できた!」


想像よりも随分と大きなガラスケースで少し驚いた。

おっきいマグロ二匹は入ると思う。

そのくらいの大きさ。

そりゃデカくて重いわけだ。


「…ガラスケースの中へ、水七リットル、袋1の粉と袋2の粉を投入して…付属のしゃもじを使って三十分混ぜます…と」


イデアちゃんはチラチラと私の方を見て、何かを訴える。


「…もぉ仕方ないなぁ。分かった、やったげる」

「さすがアンチちゃん!よく分かったね!」

「はいはい、その代わり今日のご飯当番代わってね」

「えっ…!」

「え、じゃないよ交換条件だからね」

「わかった…」

「それじゃ、ちゃっちゃと混ぜよっと」


それから三十分後、水と粉混ぜただけなのに、ガラスケースの中に地球みたいなのが出来ていた。


「おお……ミニ地球だ」

アンチちゃんが感心する間にも、ガラスケースの中では雲が渦を巻き、小さな海に波が立っていた。


「最後の工程はこれだよ!」

イデアちゃんは小瓶を掲げる。中には白い砂のようなものが入っている。

「“命の種”って書いてあるよ」

「種って……」


イデアちゃんは躊躇なく瓶の中身を水面に撒いた。

瞬間、ガラスの中に細かな光が降り注ぎ、海や大地に散らばっていく。

やがてそこに、小さな人影が立ち上がった。

数十、数百、いや…数千。


「……生きてる」

アンチちゃんは呟いた。ミニチュアのはずの人々が、手を振り、口を動かし、何かを叫んでいる。

だがその声は――なぜか耳に届いた。


『助けて』


アンチちゃんは息を呑む。

イデアちゃんは顔を近づけ、楽しげに指を差す。

「ほら見て!家を作ってる!道路もできてる!」

「……これ、私たちの声が聞こえてる」

「だったら応援しようよ!」


アンチちゃんが止める間もなく、イデアちゃんはガラスを指でトントンと叩いた。

その瞬間、空が暗転し、嵐が吹き荒れ、小さな大陸が沈み始める。

中の人々は一斉に空を見上げ、恐怖に顔を歪めた。


説明書の最後の行が視界に入る。


──観察は一週間まで。それ以上は……逆に観察されます。


アンチちゃんは顔を上げた。

ガラスの向こうで、小さな街のあちこちに無数の目が現れ、こちらをじっと見返していた。


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