第5話「ドッペルイデアちゃん」
コンビニの袋をぶら下げて部屋に戻ると、イデアちゃんが床に座ってテレビを見ていた。
「ただいまー。はい、これ"魔女っ子ミラ"のウエハース」
「わっ!ありがとうアンチちゃん!」
「あんた、そのアニメ昔っから好きだね」
「もちろん!ミラちゃんは私のアイドルだからね!」
「嬉しいようで何よりです」
ウエハースを手渡すと無邪気な顔を浮かべて、私の目をまっすぐ見る。なんだか私まで嬉しくなるような…。
袋を机の上において、買ってきたカフェオレを取り出す。
ふと、部屋を見渡す。
…特に違和感はなかった。
ただ、カーテンが少し開いていて、外が妙に明るいのが気になった。窓の方に視線を向けると、もうひとりのイデアちゃんが立って、こっちに手を振っていた。
「……」
「どうしたの?アンチちゃん」
「いや…窓の外、見てみな」
イデアちゃんは素直にそっちを見て、そして笑った。
「ほんとだ。外にも私がいる!」
「なんでそんな嬉しそうなの…」
「だって、これドッペルゲンガーでしょ! 会ったら死ぬんだよ!」
「嬉しそうに言うな」
外のイデアちゃんは、こちらの動きを少し遅れて真似している。
私が眉をひそめると、向こうも眉をひそめる。
イデアちゃんが手を振ると、向こうも手を振る。
あれがドッペルゲンガーか、初めて見た。
本当に大丈夫なのか?ちょっと怖い…。
「ほら、タイムラグあるでしょ?」
「ゲーム感覚でやめろ」
「でも段々早くなってるよ!私の事乗っ取るつもりなのかな!」
その言葉通り、遅れはどんどん短くなり、ついには同時に動くようになった。
表情まで完璧にコピーされている。
…ただし、目だけが笑っていなかった。
「よし、じゃあジャンケン勝負!」
イデアちゃんは勢いよく手を出す。
向こうのイデアちゃんも同時に手を出した――が、一瞬だけ違う手を出し、にやりと笑った。
その瞬間、窓の外から強い風が吹き込み、部屋の明かりが一瞬消える。
「うわっ…!イデアちゃん大丈夫か?」
「うん、何ともないよ!」
電気が戻ったとき、窓の外は空っぽだった。
「……消えた?」
「ねえアンチちゃん」
「…ん?」
いつもよりほんの少しだけ、ほんのちょびっと低い声で言ってきた。
「さっき勝ったの、どっちの私だと思う?」
イデアちゃんはケラケラ笑った。
笑えない私の視界の端で、壁に映った私の影が、ほんの少し笑っているように見えた。
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