第2話「箱の中身は猫?殺人鬼?」


「第一回箱の中身はなんだろなゲーム!」


私がテレビを観ているとアンチちゃんは電源を落とし、テーブルの上におっきい箱を置く。


「あっ、観てたのに」

「そんなの観てたらバカになっちゃうよ〜だ」


ふざけて言うイデアちゃんを無視する。

ムキになった彼女は私の目の前に立ち、リモコンを折った。


「あっ!ちょっとなにすんの!」

「…だってアンチちゃん無視するんだもん…」

「だからって…なにも壊すことは…」


真っ二つになったリモコンから視線を逸らし、仕方がないから箱の方へ移した。


「…で、箱の中に何が入ってるの?」

「だ・か・ら!それを当てるんだってば!ほらほら早く手、突っ込んで!」


うずうずしてるイデアちゃんは餌を待つ子犬みたいだった。

それにしても何が入ってるんだろう。

イデアちゃんの事だから極力、箱の中に手を入れるのは避けたい。

手がとれたり、増えたりするかもしれないから。


「ねぇねぇ」

「ん?」


私に向かって手招きするイデアちゃん。


「こうしてる間にさ、箱の中身が変わってるかもよ?」

「猫ちゃん入れたけど本当は違うかも!」


始まった。

今日は「中身が入れ替わってるかも」か。


「いやいやいや、猫を入れたって記憶があるんだから箱の中身は猫でしょ」


私がそう言うとイデアちゃんは箱を持ち上げて、側面に耳をつけた。


「でも何の音もしないし、重さも感じないんだよね」

「…思い込みだよ」

「本当に…猫ちゃん入れたのかな、私」

「真剣になられると困るって。ていうか中身見ればよくない?」

「よくない!だって中身を当てるゲームなんだよ?趣旨が変わっちゃう!」


変なところ頑固なんだよなぁ、この子。


「あ、そうだ。動画があるんだった。…ほら!」


イデアちゃんは私の目の前にスマホを向ける。

画面には満面の笑みのイデアちゃんが、箱の中へしっかりと猫を入れてる動画が流れる。


「動画撮ってたんなら分かるでしょうに…」

「えへへ、うっかりうっかり」


少し顔を赤くしながら箱をテーブルの上に起き直す。

私がソファに座り直して、リモコンを取ろうとした瞬間。


「…はっ!実は今、箱の中に殺人鬼が入ってて、アンチちゃんが手入れた瞬間切られちゃうかも…!」

「でも猫ちゃんが入ってる可能性もある…!?どうしよう!見るまで何が入ってるか分からないよ!」


この子…自力でシュレディンガーの猫的なものに辿り着いた?

凄いのか凄くないのか、ただ単純におバカなだけなのか。


「わかった、手入れるから。それで満足する?」

「うんうん!超満足、超満腹になるよ!」

「よし…じゃ、やるよ…」


呆れながら箱の中へ手を旅させる。

中身は猫。

分かりきってること。


「…ん?」


想像してた感触じゃなかった。

毛の部分とそうじゃない部分がある…?

猫って全身もふもふだよね?

こんな皮膚みたいなもの感じる所あったっけ。


「…もう一個ある…」


固くて少し冷たくて…尖ってる?

というか、ふたつ入ってる時点でおかしくない?


「……いたっ!」


指先にピリッと電気が走ったみたいな痛みを感じた。

すぐに箱から手を出すと、指先から少しの血が流れていた。

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