想像イデアちゃん
こもり
第1話「ヨーグルトソース」
「このソースをパンにかけて真実を知ったらどうする?」
振り向きざまによく分からない事を聞いてきた。
「何言ってんの?」
当然私は聞き返す。
するとイデアちゃんは私の右頬を、しなやかな指でつつく。
「そういう所だよアンチちゃん!想・像・力!大事!」
私は軽く受け流し、焼いたパンを一口。
ガブリ。
香ばしい旨みが広がった。
「キャップが鍵で、注ぎ口が扉…中身のソースは神様。全部を支配してる存在なわけだから、そう簡単に使っちゃ駄目だよね」
始まった。
イデアちゃんは毎日こういう具合に、想像力に任せて何でもかんでも大規模な解釈を起こす。
今日は「ヨーグルトソースが神様」か。
「はいはい、分かったからソース貸して」
私はちょっと強引にイデアちゃんの手からボトルを取る。
「あっ!駄目だよアンチちゃん、神様なんだからもっと大切に扱って!」
「こんな美味しい神様、居てたまるか」
「美味しい神様が居てもいいじゃんよ!」
私は喚くイデアちゃんを無視して、歯型がついたパン目掛けてソースをかけた。
ヨーグルトソースをかけた。
パンにかけたはずだった。
「…ここ、どこ?」
突然にして辺り一面真っ暗な空間に居た。
本当に突然の事だった。
さっきまで私ん家に居たはずなんだけど。
ソースかけようとした瞬間かな、場面が切り替わるみたくパっと。
「おーい」
少し遠くから声がした。
「おーい、アンチちゃーん」
聞き慣れた声色。
「どこかなここ真っ暗だけど真っ暗じゃない。はっきり見える!」
「…イデアちゃん、全然驚いてないね…」
「そりゃ最初はビックリしたよ。でも慣れてきたのかな」
「…相変わらず?だね」
「えへへ」
こんな時でもイデアちゃんはイデアちゃんでそれ以外の何ものでも無い。照れていられる余裕があるから。
「人間、彼方なる者の御前である。蹲え」
突然声とも言えないような声が響き渡る。
そして瞬時に脳が言葉の意味、真意を理解する。
でも理解する前に身体が反応していて本能で平伏していた。
「
突如として、目の前に無数の虹色の球体が現れた。
そしてどこからともなく響く声が耳を通り抜ける。
「あ…あ、私じゃなくて…この、イデアちゃんです」
私は彼女を身代わりに、両肩を掴んで差し出した。
そうでもしないと偉大さの前で死にそうだから。
「あ、そうなんだ。じゃあ君、名前は?」
「イデアだよ!」
「何が欲しくてここへ来た?」
「別になんにも無い!」
「じゃあ何故ここへ?」
「来たくて来たわけじゃない、突然だったからびっくりしたよ!」
「ふーん」
球体は急に黙り込み、そのまま数分……が経った気がする。
「君たちはふさわしい者だ。教えてあげよう」
たち。
つまり私もってこと?
「え、なにを!気になる!」
「ふふっ、教えがいがある。さぁ時間、空間、次元、真実、全てを知りなさい」
球体はそう言うと消えた。
部屋の電気を消したみたいにパッと
それと同時に私の頭に無限で膨大な何かが流れ込む。
頭が割れそう。
やばい。
本当にやばい。
不安と焦燥感、恐怖、喜び、それと多大な全能感。
全てを理解して全てを知った。
球体の正体もね。
私なんかが口に出して良い存在じゃない。
偉大で外なる神、全ての支配者だ。
「すごっ!全部分かった気がする!」
「私たちの世界ってやっぱりちっぽけだね!」
イデアちゃんは凄く嬉しそうだった。
ああ、家に帰ったらヨーグルトソースは捨てよう。
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