第3話シナリオ

「その姿……貴様、魔物か?」

(しっつれいな、どこが魔物よ!)


 鼻筋に一つ赤い線を作った咲枝は、恐怖を抱くより先に、反論を心の中で叫んでいた。咲枝の姿を認めた途端にナイフを投げつけてきた少年は、険しい眼差しのまま、今度はもっと大振りな剣を構えていた。今しがた受けた傷は、痛いというより痒かったのだが、次にあの剣を向けられれば、間違いなくただでは済まない。ひとまず咲枝は、現状打破のために誤解を解くことから始める。


「わたし、魔物なんかじゃないです」

「では竜蹄の密偵か」

「は? 料亭?」

「鍵のかかった燃料室に忍び込むなど、それ以外考えられない」


 少年は白金色の髪に青い目。日本人には見えないが、日本語は通じている様子。けれど咲枝と少年の話は上手くかみ合わない。唯一わかったことは、やはり咲枝がこの部屋の不法侵入者と見做されているようだということだった。


 困った咲枝が「ここは死後の世界ではないのか?」と尋ねると、今度は少年の方が面食らったらしく、困惑の表情を浮べていた。そうこう言っている間にも、石は一つ、また一つと、光になっては咲枝の中へと消えてゆく。痛みも何も感じないが、あまりに奇妙な光景に、咲枝も良い気分はしない。


「あの……これも止めてくれません? なんか、気味が悪くて……」


 今度こそ少年は狼狽したのか、訝しむように見すくめられる。咲枝はますます居心地が悪くなる。


「お前……自分でやってるんじゃないのか?」

「できる訳ないでしょう? だからわたし、普通の人間なんですって……」


 そこで咲枝は、急に体を傾がせる。気分の悪さが、だんだん本格的になってきたのだ。するとすかさず、少年が剣を下ろして駆け寄ってきて、咲枝の身体を支える。咲枝への敵意はヒシヒシと感じられるものの、少なくとも今すぐ斬られるという事態は避けられたようだった。


「よくわからんが……ともかくここから出てくれ。このままそれを吸い続けられると……皆、落ちる」

「へ? 落ちる? どこから? ここ、地上じゃないんですか?」

「? 何を言っている。我々は地上を離れて久しいだろう?」


 咲枝が、今自分たちがいる場所が飛空艇という、空飛ぶ船の一室であることを知ったのは、それからすぐのことだった。

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