第5話
中学卒業後、俺は希望していた高校へと進学し、そこの陸上部に入った。
顧問の根本先生の指導はこれまで俺が受けてきたどれよりも厳しいものだったが、激しい疲労に対して自分の実力がさらに伸びていくのが感じられたから、一度だってつらいと感じた事はなかった。この人についていけば、全国大会の表彰台に登れるのも夢じゃないと、本気で思えた。
練習が厳しい分、根本先生はオフも大事にしろと言ってくれる素晴らしくて立派な指導者だった。適度に体を休ませるのも大事な練習だと言って、週に一度は部活の休みを設けてくれる。そういう日は、クラスメイトの誰かを伴ってゲーセンやボーリング、カラオケなんかに繰り出して、実に高校生らしい時間を謳歌した。
だが、そんな時でも、俺の目は時折、ここにはいない泉坂の姿を捜していた。俺の隣にお前がいてくれたらと、小学生の時からずっと思っていた。
なあ、泉坂。お前、今どこにいるんだよ?
どうして、陸上クラブに入らなかった? 一緒に練習しようって言い出したのは、お前の方だったじゃないか。その約束をすっぽかして、今頃どこで何してるんだ?
俺、あの頃よりずっと速くなったんだぞ? 今度は絶対負けない。今度こそ、お前をぶっちぎって俺が一番になるんだ。それなのに、お前がいないと始まらないじゃないか。
俺、結構目立ってるだろ? お前の目に、俺の活躍が映らないはずがない。雑誌のインタビューやニュース番組の特集だって本当はものすごく恥ずかしかったのに、ほんのちょっとでもお前に届けばいいと思ったから、頑張って受けたんだ。だから、知らないはずないだろ?
まだ、目立ちが足りないんだろうか? もっといろいろ頑張れば、いつかお前に届くか? そしたらお前は出てきて、俺と勝負してくれるのか? なあ、泉坂……。
「……よぉ~し! 俺、米津玄師歌うわ!」
とあるチェーンのカラオケ店に入ってすぐ、俺はリモコンを操作して、ちょっと聴きかじった程度の歌を次々と入れていく。当然、俺の声質じゃ米津玄師の独特かつ天才的なラインナップを歌いこなせる訳もないんだけど、俺がカラオケでうまく歌えて目立つようになったら、いつか泉坂に気付いてもらえるんじゃないかってありえない事まで考えるようになっていた。
本当、執着じみていてバカみたいだ……。
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