初詣
成瀬部長宅を出発して近所の神社のお参りに行く道中、翔太はは“つま先”ネタを考えていた。先ほどまでの焦燥感から解放されると、抜けるような青空や冬特有のカラッとした空気に気がつく。驚くほど視野が狭くなっていた自分に気づき、翔太は部長の提案に改めて感謝していた。
ふと気づくと、部長達三人が少し先を歩いていて桃花だけが横にいた。
「桃花、プロットのこと気にしてくれてありがとうな」
「いいよ、私もしつこかったし」
素直に謝罪、とまではいかなかったが感謝の気持ちがすっと口に出る。それを桃花に受け入れてもらえて、翔太の心は一段と軽くなった。翔太自身気づいてなかったが、成瀬部長宅に向かう道中に桃花とケンカしたことは想像以上に心の重しとなっていたのだ。
翔太はテンションが上がっておもわず道端に落ちていた空き缶を軽く蹴る。
「タイトル『つま先で空き缶を蹴る』とかどうよ」
「安直ね。でもそこからうまく膨らませたら物語になるかも」
クスクス笑いながら応える桃花。目線を空に向けてちょっと考え込む桃花の横顔を見ながら、翔太はその整った顔立ちに今更ながら感心する。
(よくよく考えたら、幼なじみとはいえこんな美人と初詣とかすごいよな。ちょっとラノベっぽい)
翔太の雑念をよそに、プロットになるネタを思いついた桃花が嬉しそうに翔太へ話しかけてくる。
「例えばだけど。高校の文芸部のメンバーで初詣に出かける途中、僕は空き缶を蹴った、なら少し小説っぽくならない?」
「言われてみれば…まだ冬休みの日記ぽいけどな」
「さらに、とても可愛い幼なじみと一緒に歩いてる途中、を付け加えるとか」
「自分で自分のこと平然と可愛いとかよく言うなぁ」
「可愛くないの?」
「はい、可愛いです」
「よろしい」
すっかりいつもの調子に戻る翔太と桃花。子どもの頃、よくこんな風に二人で登下校していたことを翔太は思い出していた。今も二人で歩く事はあるが、文芸部の活動がなかったらそこまで交流はなかっただろう。
「子どもの頃、よく空き缶蹴って帰ったよな。てか、空き缶をなくさずに家まで帰れたらスキー行く!とかやったんだよな」
「この前のお題で書いた短編に使ったネタね。翔太は忘れてたけど」
「ごめんて。えっと、空き缶なくさずに神社までいけたら〇〇する。これを付け加えたらグッと小説っぽい?」
「そうね、花占いの缶蹴り版みたいで面白いそう。」
「花占いって、好き嫌いとか言いながら花ビラをちぎっていくやつか」
花占いって実際やった事ないけど、ラノベでヒロインが花占いをするシーンを読んだことはある。たしか花占い占いで好きと出たので、勇気を出して告白しにいったはずだ。
「告白とか面白いかもな」
「こ、告白?!」
「そうそう。ヒロインが缶蹴りを神社まで続けられたら告白するる、みたいな。俺が恋愛っぽい作品書こうとするの意外だよな」
「……なんだ、ヒロインの話ね。いいんじゃない?翔太が恋愛のことを学ぶきっかけになるかもしれないし!」
桃花は機嫌を少し悪くしたのか翔太へそう言い捨てると、前を歩く部長達の元へ駆け出していった。
「……急になんだよ、もう少しプロット作りに協力してくれてもいいじゃないか」
翔太は口を少しとがらせて呟いたが、一人で神社まで歩くのも味気ないので桃花のあとを追って部長達の元へと合流してのだった。
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