カクヨムコンへの参加!
少し時を巻き戻す。
「文芸部員たるもの、日本最大の小説コンテストであるカクヨムコンテストに参加すべし!」
時は十一月下旬頃。成瀬部長の鶴の一声でコンテストへの参加が決まったのだが、部員五人中三人が執筆未経験者ということもあり、比較的敷居の低い短編部門へ部員全員が参加する穏当な形に落ち着いた。
未経験者三人衆の一人である一年の
ところが冬休みに入る直前の十二月中旬に、翔太の甘い目論見を打ち砕くお知らせがカクヨム公式より飛び込んでくる。
「お題で執筆!! 短編創作フェス開催!」
七週にわたってカクヨム公式から毎週お題が発表され、そのお題をもとに短編を執筆するお祭りなわけだが、部長の成瀬が「部員全員参加しよう!短編を七つも完成させたら、君たち執筆未経験者三人もたちまち一人前の文芸部員だっ!」と熱く吠え出してしまったのだ。
元々読み専の翔太である。成瀬部長の執筆圧に負けて短編コンテストへ挑戦することになってしまったが、さすがに毎週作品を完成させないといけないとなると勘弁願いたいのが本音だ。
同じく執筆活動に熱心な塩野副部長はともかく、執筆未経験者の二人は当然難色を示すだろう。そうなれば仮に多数決となっても、反対多数で否決のはずーー
「私は別に参加してもいいですよ。四百字くらいなら毎週書けます」
(おいおいおいおい!)
幼なじみの同級生
中学生の頃、成績優秀で先生の評判も良かった桃花が、“そこそこ”の中野都立高校の受験を決めたことに驚いて本人に理由を聞くと、
「私の将来なりたい職業は地方公務員。だから高校も大学も
と答えられて、中野高校が妥当な成績な上に大学以降の進路など何も考えていなかった俺とのあまりの将来設計の差に驚愕したものだ。
(そんな桃花の
幼稚園からの家族ぐるみの付き合いである桃花に裏切られた思いの翔太だったが、一度こうすると決めた桃花の意見を覆すのは容易ではないことをよく知っていたので、反論を試みることすら即座に諦めた。
(となると……佐藤ゆずだ。陸上部は冬も忙しいだろ?!たのむ、反対しろ!)
翔太が桃花を説得できなくとも、同性で仲良しの佐藤ゆずが毎週短編執筆に難色を示せば意見を翻すかもしれない。その可能性に賭けて、翔太は祈るような目で佐藤ゆずを見つめる。
「私も毎週書いていいよ!いま脚を痛めてて陸上部の活動があんまり出来ないし、それなら短編に挑戦出来るかなって」
(え、脚痛めてたの?!素人だと全然気づかないもんだな)
頼みの綱の佐藤ゆずが、まさかの理由で毎週短編執筆に賛成してしまった。こうなると翔太に打つ手はなく万事休すである。
「……俺は毎週書ける自信がないんだけど」
「心配するな、武内。毎週プロット会議をやろう!部員五人集まれば文殊の知恵も超えるぞ!」
毎週執筆どころか冬休みすら文芸部の集まりが開催される事態に暗然となる。ラノベを読みまくる有意義な冬休みが一転して、慣れない執筆活動に置き換わってしまったのだ。
(カクヨム公式から「積読消化キャンペーン」の告知もきてるのに、読む暇ないじゃん)
俺の有意義な冬休みを妨害しようとする誰かの陰謀に違いない。そんな出来の悪い妄想を信じたくなる衝動に駆られながら、翔太は力なく短編執筆活動に参加を了承したのだった。
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