第6話シナリオ

利駆がアルバイト生活を始める一方、仕事に追われる茜。彼には、芸能界入りした確固たる理由があった。それを想い、休憩時間に向上心を燃やしていた彼のもとへ、茜に気のある新人アイドル、梨咲が近づいてくる。


 撮影後の予定を尋ねてくる梨咲を、茜は適当にあしらおうとするが、めげる様子のない彼女は「先日もご飯に付き合ってくれなかった」と発言。【ご飯】という単語に、茜はこの日のロケ弁が、茜への嫌がらせかと思うくらい彼の嫌いなメニューのオンパレードだったことを思い出す。


 利駆の料理にも茜の苦手な材料は混ぜ込まれているが、彼女はそれと気づかないように味や大きさに工夫を加えてくれるため、茜は利駆の作るものを好んでいた。そのため次の瞬間には、「アイツの弁当が食いたい」と、つい本音をこぼしてしまった。


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 利駆の記憶は朧気だが、両親の葬儀の際、利駆と親族は少しだけ顔を合わせていた。その際利駆が耳にした言葉は心ないものばかりで、彼女が居心地悪そうにしていたのを茜は覚えている。


 葬儀から暫く後、利駆は茜の母に、良い子にしていたら自分の祖父母はいつか迎えに来てくれるだろうか、と尋ねたことがあった。茜の母は無難に「良い子にしてたらね」と返したが、幼い利駆はその言葉を鵜呑みにし、それまでにも増して【良い子】を演じるようになる。


 そんな利駆に茜が「そんなに祖父母のところが良いのか」と尋ねると、


「わたしは居候で、茜くんは家族ではありませんから。やはり家族というものと、一緒にいたいと思うのです」


 と、寂しそうな笑顔で答えられた。その時には、既に手遅れだった。茜が照れ隠しに繰り返していた【居候】という言葉は、茜が思っていた以上に利駆に重くのしかかり、気づけば取り返しがつかないくらい、彼女をきつく縛っていた。


 今の茜は、それを自業自得だと思える程度には成長していた。夏の利駆は決まって憂い顔だが、茜にそれを慰める資格はない。だからこそ、彼は余計に目標に到達しなければならないと思っていた。「アイツって誰?」という梨咲の詰問と、番組スタッフのリハーサル開始の合図はほぼ同時だった。考え事も一段落していた茜はこれ幸いとばかりに椅子から立ち上がり、


「母ちゃんの弁当が恋しいってコト。俺、まだまだお子ちゃまだからさ」


 と言い、決意を胸に自分の戦場へと足を踏み出して行った。

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