第4話シナリオ

利駆や茜の、名前にまつわる話。小学生当時、利駆は茜のことを、【茜ちゃん】と呼んでいた。ある時クラスメイトに、【利駆】は男子みたいな名前、【茜】は女子みたいな名前で可愛いと言われる。名前の話題になると真っ先に自分たちの名が挙がることを、利駆はさして気にも留めていなかった。しかし茜はあからさまに嫌がっていることを利駆は知っていたため、可愛いと言うのはやめるよう注意する。


 そんな利駆に、クラスメイトは茜のことが好きなのかと問い詰めた。女子児童たちの意図が読めないまま利駆が「うん」と答えてしまうと、翌日、利駆が茜のことを好きだと言ったことはクラス中であっという間に広まっており、利駆と茜は散々からかわれることになる。茜はすっかり不機嫌になり、利駆は自分が茜を好きになってはいけないのだと感じた。利駆が誰かを好きになると、その人に迷惑がかかるのだと。


 折しもその頃、男子児童の間では、茜の名を女子のようだとからかうブームが発生していた。そこへ加えて、利駆の「茜のことが好き」発言。男みたいな利駆と女みたいな茜で結婚しろ、利駆は茜のことが好きだからちょうどいい。そのように囃し立てられ、茜はついカッとなり、「誰があんなやつと!」と叫んでしまう。


 しかしそこで、場が急にシーンと静まり返る。辺りの男子たちが揃って見つめる一点に茜も視線を向けると、そこには一人佇む利駆の姿。茜はハッとするも、今更発言を撤回する訳にもいかず、逃げるようにその場を走り去ることしかできなかった。


 帰宅後も、茜は蝶野家の夕食の席で一言も口を利かないまま自室へ戻ってしまう。心配した彼の両親に様子を見てくるよう頼まれた利駆は気まずいまま、茜が一人こもっている部屋を訪れるも、呼びかけに返ってきたのは激昂だった。


「ちゃん付けで呼ぶな! 余計女子みてーだろ!」


 そう言う茜に、彼の両親はそう呼んでいることを利駆が指摘すると、「お前は家族じゃない」「居候はそれらしい言動をしなければならない」と怒鳴られ、その日の二人は物別れに終わる。


 その後、利駆は少ない小遣いをかき集め、『正しい敬語の使い方』という本を買ってくる。それ以降、彼女はこの本を愛読するようになり、誰に対しても敬語で話す癖がついた。

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