第2話シナリオ

【魔荒らし】と呼ばれる青年・レグルスが、魔研所第三室から少女を連れ出して数日。レグルスはまた別の研究室を襲っていた。研究員の一人は、少女の姿を認めると、


「お前はっ、まさか、第三のサンプ……」


 と言いかける。しかし言葉は、レグルスが無表情のまま彼の胴を一突きにしたことで、最後まで紡がれることを許されなかった。レグルスは、刀を引き抜きながら呟く。


「執着から解放され、ゆっくり休むが良い……」


 一瞬にして急所を突かれた研究員は、そのまま床に吸い寄せられる。その様子を無感動に見つめながら、それまで黙っていた少女が口を開く。


「さんぷ……?」


 少女が小さく発した言葉は、さほど意味を成してはいない。それでも青年は、クルリと身を翻すと、擦れ違い様に手を伸ばし、少女の頭をクシャリと撫ぜた。


「気にするな」


不意に撫でられた頭に自身の手を遣り、少女は部屋を出て行くレグルスを目で追う。もう一度だけ室内に視線を戻した少女はやがて、どこか納得したように、


「気にしない」


 とだけ呟いて、静かに戸を閉め立ち去った。


 レグルスが少女を連れ歩いているのは、酷く、奇妙な構図ではあった。レグルスは魔道を憎んでいる。関連するのが人であれば殺し、物であれば破壊の限りを尽くし、世界から魔道というものを根絶すべく動いている。しかし、少女の命は現在、まさにその魔道による恩恵を賜ることで支えられていた。


(副産物に、罪は無い)


 それがレグルスの出した結論だったが、彼自身ひどく言い訳めいているとも感じていた。少女のことは、気紛れに連れ出したに過ぎないが、彼自身にも疑問に思えてならなかった。敢えて答えを出すなら、重なったから、だろうか。


 壊す者と、創られし者。


 ともすれば対極に据えられそうな存在の二人。だがレグルスも、少女も、【彼女】も、糸が切れたらそこで終わりの人形ではなく、ちゃんと自分で動けるのだと、そう声高に主張したかったのかもしれない。


 少女は相変わらずどこか呆然としており、無表情のまま辺りを見回してはぽてぽてと頼りなげに歩を進めている。少女が自分に追いつけるようにと足を止め、聞いてはいまいと思いつつも、レグルスはぽつりと言葉をもらした。


「お前は俺が【生かして】やる……だからお前も、【自分】を創るんだ」


 危うい歩みで漸く追いついた少女は、軽く口を開いたまま不思議そうに首を傾げた。

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