第15話 合格者
「これにて全ての試験が終了した。これより合格者を発表していく。まず第一位、オルカ・ディアーノ。第二位ギゼル、第三位ダグラス……」
淡々と合格者の名前が呼ばれていき、試験場の中央へと並んでいく。
トーナメントが一通り終了し、遂に部隊へと配属されることが確定している上位25名の順位が決まった。結局すべての試合を勝ちあがったオルカが首位となった。
上位25名が決まったとはいえ、そこに入れなかった者が合格できないという訳ではない。
前にも述べた通り、部隊が採用する人数は最大で三人までだ。つまり、上位50名以内に入ってさえいれば声がかかることも可能性としてはあり得る。
「オリベルもきっと大丈夫ですから。最後まで諦めないでください」
名前を呼ばれ並びに行く直前、オルカがオリベルに対して放った言葉である。その言葉に従ってオリベルは祈っていた。
第一部隊には入れなくとも騎士団に入団することが出来ればステラへの道は開ける。あと一年しかない。オリベルが諦める筈がなかった。
「……以上25名が試験の合格者だ。だが私の判断でカイザー・エリュートを私の部隊に入れたいと思う」
セキのその言葉はこの場に居る全員を驚愕させた。まさか補欠合格の中から第一部隊へ配属される者が現れることなど聞いたことのない話だったからである。
「へ? 負けたのに?」
「君の力からは類稀な才能を感じた。ぜひとも我が第一部隊へと来てほしい」
呼ばれたカイザーが不思議そうに尋ねるとセキはそう断言し、第一部隊へと勧誘する。
「確か前々からあなた部隊に風属性の子が欲しいとか言ってたものね~」
「おいおいセキ、そいつは俺が狙ってたってのに。まあウチの部隊と第一部隊じゃ勝負にならねえか」
隊長達から納得の声や不満の声が上がる。
「どうだカイザー?」
「え? あぁ、そりゃ第一部隊に入れんなら入るぜ」
「よし、決まりだな」
まさかの上位25名を放っておいて他の所から選び出すというセキの手段に会場中がざわつく。
並んでいる上位者たちからも不満そうな視線を浴びせられてはいるが、そんなことはお構いなしなようだ。
「隊長達の中で他にこいつならウチの部隊に引き上げても良いという奴は居るか?」
セキの声に隊長達からは誰も手が挙がらない。ここで手が挙がらなければオリベルは騎士団へと入団することはできない。
オリベルとしてはここで手を挙げてもらいたいところだが、一向に挙げない隊長達を見て半ば諦めかけていた。
「ふむ、他には居ないようだな……それでは」
「いやちょっと待った」
セキが終わろうとしたその時、隊長達の中からそんな声が聞こえてくる。隊長の中で最年少の第十部隊隊長のリュウゼンであった。
「もう少し早く挙げろ」
「すまんすまん。ここで選ばなかったら合格者全員他の部隊で取られそうだったからどのみち挙げる気ではいたんだが取りてぇ奴の名前が思い浮かばんくてな。遅くなった」
「それで誰を取るんだリュウゼン」
「あぁ、俺が取るのはお前だ。白髪」
そう言ってリュウゼンが指を差したのは紛れもなくオリベルの方であった。
一瞬、自分が指を差されたことが本当なのかを疑うもこれほどまでに目立つ白髪はオリベルしかいないため、確信する。
「え? 僕ですか?」
「ああ、そうだ。何つーか、お前の身体強化魔法が気に入った。前に来い」
言われた通りに前へと歩み出る。その後ろ姿にはもう憂いなど残っていなかった。
「んで申し訳ねえんだが名前は何ていうんだ?」
「オリベルです」
「オリベルか。良い名だ。それでオリベル。第十部隊で悪いが入ってくれないか?」
「こちらこそお願いします!」
リュウゼンから差し出された手を即座にとり、握手を交わす。掬いあげてくれたリュウゼンの姿がオリベルの目にはまるで救世主かのように映っていたのだ。
「よし、成立だな。セキ、続けてくれ」
「お前はもう少し年上をだな。まあ良いが」
リュウゼンと握手を交わしたオリベルは合格者の列へと並ぶ。そんなオリベルを見てオルカは自分の事のように嬉しく思う。
「それでは以上27名を今回の合格者とする。これより配属先が決まっていない者の配属先を決めていくため、合格者以外は試験場から退出してもらう。皆、お疲れ様」
セキの言葉に試験場から不合格となった受験者たちがぞろぞろと退出していく。
悔し涙を浮かべる者、腹を立てる者、そんな彼等を見てオリベルは少し心が痛くなった。拾い上げてもらえなければ自分もあちら側だったのだから。
「よし、今ここに残っている者は皆、合格者たちのみだな。それでは合格者たちの中から配属先を挙手で決めていく。合格者たちは手を挙げている隊長の中から好きに部隊を選んでくれ。まずは第一位オルカ・ディアーノ」
セキがそう言った瞬間、すべての隊長が手を挙げる。圧倒的な強さ、そして持ち前の破壊力に依存していない技術力はどの部隊からも欲しがられて当然であった。
確実に第一部隊へ行くだろう。誰しもがそう思っていたその時、オルカは一瞬何かを考えたかのように目を瞑った後、目を開けて隊長達の方へと歩いていく。
そしてオルカが立ち止まった場所は第一部隊隊長の前でも第二部隊隊長の前でもなく、第十部隊隊長のリュウゼンの前であった。
「え、お前嘘だろ?」
「よろしくお願いします」
周囲からの視線を気にすることもなく深々とリュウゼンに向かって頭を下げるオルカ。それを見た全員が目を疑っていた。どこの部隊でも選べるというのに最も順位の低い部隊を選んだのかが理解できなかったからである。
それはオリベルも同様であった。あれだけ第一部隊に固執していたオルカがなぜ第十部隊を希望したのか、それが分からなかった。
だがそれだけではない。
何よりもオリベルが驚いたのは、第十部隊を選んだオルカの顔に浮かんでいた死期がその瞬間に変化したことにあった。
17歳2か月0日。それはあまりにも早すぎるものであった。
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