第14話 努力VS天才

「養成学校ぶりですね、カイザー」


 オリベルの試合の後、少ししてオルカの三試合目が始まる。相手はセリューテ養成学校でも同期であった緑髪の青年、カイザー・エリュートである。

 オルカに話しかけられたカイザーは特に返事をすることもなくただボーっとオルカの方を見つめていた。


「相変わらずですね」


 養成学校の時からカイザーはいつもこんな感じであった。誰に話しかけられても無表情で答えようとすらしない。

 それがゆえにオルカはカイザーが誰かと話しているのを見たことが無かった。


「はじめ!」


 セキの声でオルカは早速カイザーから距離を取り、魔力を練り上げ始める。爆発魔法は威力が強力な分、調整が難しいため近距離で放てば自分もくらってしまうという危険性がある。

 オルカの戦闘方法はいつも相手から距離をとって遠くから絶大な威力の破壊魔法を放って相手を戦闘不能にさせるというものであった。


「エクスプロード!」


 オルカが唱えた瞬間、空間が一気に歪みそこから絶大な破壊力を持った爆発が生じ、カイザーへと襲い掛かる。対するカイザーは地面へと手を向ける。

 刹那、試験場に暴風が発生して、カイザーの体を宙に浮かせる。それによってカイザーは爆発を回避することに成功する。これがカイザーが扱う属性魔法、風魔法であった。


 緑色の髪を靡かせながら上空からオルカの方を見下ろすと、カイザーはここにきて初めて言葉を発する。


「怖い怖い」


 不敵な笑みを浮かべながらまるでオルカを嘲るように言う。それを見たオルカはさして気にすることもなく、次の術を仕組んでいた。


「エクスプロード!」


 上空に生まれる爆発。それは風を操って素早く動き回るカイザーには当たらない。二人の距離が徐々に縮まっていく。

 オルカは爆発魔法を当てることを諦め、腰に提げていたレイピアを取り出し、上空のカイザーへと突き出す。しかしそれすらもカイザーには当たらない。だが隙は生まれる。


「はあっ!」


 オルカの掛け声とともにカイザーのさらに上に生まれる爆発。

 前からはレイピア、後ろからは爆発に挟まれたカイザーが逃れる道はなく、その爆発へと飲み込まれる。まさに決定打となり得るほどの破壊力を持った爆発はカイザーの体を吹き飛ばす。

 会場内の誰もがオルカの勝利を疑わなかっただろう。しかし、オルカの顔には未だ警戒の色が残っている。カイザーという男がこれしきの事で負ける筈がないことを知っていたからである。


「これであなたを倒せる訳がありません。いい加減起きてはどうですか?」

「……あーバレてたか。不意打ちできれば楽だと思ったんだけどな」


 爆風の中から出てきたのはあれだけの爆発を受けていながらも立ち上がるカイザーの姿であった。

 この男の真に恐るべきはその圧倒的な防御力である。痛いのが嫌だからという理由だけで風の防壁を極めたのだ。


 それでもオルカの爆発を完封するには少し足りなかったようで、所々怪我を負っている。


「長引くのも嫌だな。痛いから」


 そう呟くとカイザーの周囲を再度、風魔法が包み込んでいく。それは徐々に広がっていき、気付いた時には試験場全体を覆うほどの大嵐となっていた。


「まさかこれほどに魔力があるとは思いませんでした」


 身体強化魔法によって作られた魔力障壁のお陰で大嵐の中でもオルカは平然とその場に立つことができた。


「これが俺の最高戦術。首席のお嬢様には悪いがここいらで退場してもらう」


 どこからともなく風によって声が運ばれてくる。すでに勝ちを確信したかのようなその言葉でこの術に対する信頼度が伺える。

 カイザーによる場面構築で明らかに不利へと追い込まれたオルカ。しかし、その顔には焦りなど一切生まれていない。


 大嵐の中、目を閉じてスッと片手を前にかざす。


「座標指定、チェイン」


 オルカがそう呟いた瞬間、至る所で爆発が生じていく。その凄まじさは試験場を覆い隠すほどの大嵐を一瞬にして消し飛ばすほどに強力であった。


 その攻撃から逃げられる者が居る筈もなく、爆発によって宙へと投げ出されたカイザーの下へと走り出すとオルカは腕を引っ張り地面へと叩きつける。


 そうしてその首元にレイピアを当てる。


「終わりです」

「いやはや参った参った」


 負けてもなお笑うカイザーを見て少し脱力する。

 オリベルは負けてあれほどに落ち込んだというのにこの男はそうではないのかと少し毒を吐きたい気分になったのをこらえて、カイザーへと背を向けステージを後にする。


「勝者オルカ・ディアーノ」


 淡々と告げられたセキの言葉を背に受けてオルカはゆっくりと階段を上っていくのであった。

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