第12話 属性魔法
その後、オルカの試合があったわけだが、特に述べる必要もない程に圧倒的な大差で勝利を収めた。オルカによる爆発魔法には最早付け入る隙がなかった。
そうして第二試合が一通り終了する。隊長達は本日中にすべての試合を終えるつもりであったため、昼休憩はそこそこに三試合目を始めることになる。
「緊張するな」
「まあ相手があのギゼルですからね」
三試合目。これに勝てば騎士団への入団が確約される。そんな大事なタイミングでオリベルの相手が優勝候補のギゼルとなったのだ。それはもう運命を呪うしかなかった。
「オルカの三試合目の相手もあのカイザーだろ? 勝てるのか?」
「勝てるかどうかではありません。勝つのです。私は第一部隊隊長のセキの妹であり、ディアーノ家の娘です。第一部隊に入れなくては意味がないのです」
養成学校でも鍛錬でも常に一番を目指し続けていた努力型のオルカと常にやる気がないもののやればできた天才型のカイザーとの一戦である。
オルカは今までカイザーに勝ち続けてきた。それはオルカが強いのはもちろんだがカイザーがあまり本気を出していなかったからでもある。
本気を出したカイザーに勝てるのかどうか、それはオルカにも分からない。だがオルカは勝つしかないのだ。勝って第一部隊へと入隊する必要があった。
「そういえばあなたにはまだ属性魔法が残っていますものね。どの属性を使えるのかは分かりませんが隠しているという事はよっぽど強いのでしょう?」
オルカのその何気ない一言でオリベルの動きがピタリと止まる。そんなオリベルの顔をオルカが不思議そうにのぞき込む。
「どうかされましたか?」
「……えないんだ」
「はい?」
「僕は属性魔法を使えないんだ」
自信なさげに紡がれるその言葉はオルカにとって衝撃的なものであった。別に属性魔法を使えない者なんて星の数ほどいる。それどころかその基礎となる身体強化魔法ですら使えない者は多い。
ではオルカがなぜ驚いているのか。それはオリベルほど巧みな魔法操作ができる者で属性魔法を使えないという話を聞いたことが無かったからだ。
「え? あんなに身体強化魔法を使いこなせているのにですか?」
オルカの問いかけにオリベルは首を縦に振り、肯定の意を示す。
「何度試しても駄目だったんだ。身体強化魔法を習得してからかなり時間が経ってるのにいつまで経っても属性魔法を使えるようにならなかった。だから僕は身体強化魔法しか使わないんだ」
「そう……だったのですか。事情を知らず不躾な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」
「良いよ、気にしないでくれ」
属性魔法を使えないのは入団試験を受けるにあたって周囲の受験者と後れを取ることになる。属性魔法も使えずに受験する者は普通居ないため、オルカが属性魔法を使える前提で問いかけてきたのは当然と言えた。
そのことを理解していたオリベルはオルカを責める気にはならない。寧ろ気まずい思いをさせて申し訳ないとすら思ってしまう。
「あっ、そろそろ控えの方に行かないといけないから行ってくるよ」
「……はい」
未だに気にしている様子のオルカへ最後に気にするなと言葉をかけて一階へと向かう。
控え席に着くもまだギゼルの姿はない。
「次の対戦相手はお前か」
オリベルが席に座ろうとすると後ろからそんな声が聞こえてくる。水色に赤い瞳をした青年、オリベルの対戦相手のギゼルであった。
「よろしく」
「ああ」
それだけ言うとドカッと椅子に座り、足を組む。その視線はオリベルの方ではなく、ずっと真正面を向いている。
「不運だったな」
「え?」
「だから不運だったなと言っている。俺と当たらなければ合格していただろうからな」
オリベルの方を一切見ずにギゼルがそう言う。既に勝っているかのようなギゼルの言い草にオリベルは少しムッとする。
「まだ君に負けたわけじゃない」
「……相手と自分との戦闘力の差は瞬時に判断できた方が良い。俺はそうやって冒険者生活を乗り越えてきた」
そこまで言うとギゼルはちらりと横目でオリベルの方を見る。その瞳にはオリエルを見下す感情など微塵もない。寧ろオリベルに対して期待しているかのようにも思えた。
「お前にはまだまだ経験が足りない。技術があっても対応力が無ければ良い戦士にはなれない」
「足りないものは今から補っていけば良い」
「補うものが何かわからなければ補いようがないだろう? そういうところだ。未来を見据えていそうで何も見えていない。その考え方から直す必要がある」
ギゼルがそこまで言った時、ちょうどひとつ前の試合が終了する。
「今回の手合わせで学ぶと良い」
「そうかい」
やけに上から目線のギゼルの言葉は今から対戦する相手に向けるような言葉ではない。まるで養成学校の教師が生徒に対して向けるような言葉である。見下された方がまだマシであった。
最早対等な相手として見られていないことにオリベルは反発心を抱えながら試験場へと足を踏み入れるのであった。
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