第11話 少年の魔法
「それではこれより二日目の入団試験を始める」
セキの号令によって二日目のトーナメントが始まる。オリベルは5試合目のため、早めに準備体操をしておく。
「昨日は全試合あると思って体力温存してたけど、今日は最初から全力で行くぞ」
「一応、団長達の覚えで入団できるかどうか決まるところがありますので気をつけた方が良いですよ」
「え、ほんと? 次から気を付けるよ」
だとすれば団長達からのオリベルの印象は最悪なものだと予想できる。どんな相手にも全力を出すと言うのが騎士道というものだからだ。
しかし実際、団長達の目にはそれほど入っていなかった。なぜなら、その後に続いた試合があまりにも印象的だったから。
水色の髪のA級冒険者、ギゼルの猛将の如き戦い。中性的な顔立ちとは裏腹に背負う大剣を一度振るえば試験場の壁が抉れるほどに強力な一撃。
赤髪の元傭兵ダグラスの凄まじい剣戟の応酬。両手に握る双剣の手数は凄まじい。それでいて一つ一つの斬撃がギゼルと引けを取らないほどにまで昇華されていた。
そしてオルカの一騎当千の戦いぶり。希少属性魔法、爆発魔法を一度放てば全てが消し飛ぶ。それはまさに災害であった。
最後にオルカが強いと評していたカイザー。その立ち居振る舞いは確かにオルカがオリベルに言っていたようにあまり宜しいものではない。
常にボーッとして対戦相手の姿も目に入っていないようであった。しかし、その戦闘技術には目を見張るものがあった。
間合いの詰め方一つをとっても綺麗なものでまるで相手の視界を持っているかのように瞬時に死角となる場所を見出し、相手が気付いた時には既に懐へと入り込んでいた。
絶大な破壊力で敵を消し飛ばすオルカとはまさに対照的な戦い方である。
「そろそろあなたの番ですね。私と言葉を交わした以上、負けたら容赦しません」
「うん、もちろん負けないつもりだよ」
三試合目が始まり、オリベルは一階にある控えの席へと向かう。控えの席ではすでにオリベルの対戦相手が座っていた。今回の相手もオリベルと仲良くするつもりはないらしく、じっと目を瞑ってその時を待っている。
オリベルも見習って精神を統一していく。身体強化魔法には精神統一が大事であるとマーガレットから教わっていたからである。
「次の受験者は前へ」
セキの言葉でオリベルは意識を戻し、立ち上がる。精神統一をした甲斐あってオリベルの体中には先程までとは比べ物にならない程に力がみなぎっていた。
「よろしく」
試験場の中央で相手の受験者と握手をすると、両者スタート地点へと着く。
「はじめ!」
号令と共にオリベルは足を一歩踏み出す。踏み込みだけで地面が抉れ、大気が震える。その踏み込みによって得たものは常人には追いきれないほどの速度だ。早速、相手の首元へと剣を滑り込ませる。
しかしそこは流石、世界最高峰の人材が集うウォーロット騎士団の入団試験である。相手も負けじとその剣筋に対応し、間一髪で攻撃を防ぐ。
「は?」
なまじっか反応できてしまうのが良くなかった。精神統一によって練り上げられた身体強化魔法によるオリベルの膂力はもはや人の域を超えていたのだ。
オリベルの剣は相手の受けた剣を一刀両断すると、首元に当たる寸前でピタリと止まる。
「これで試合終了だね」
まだまだ試合が続くと思っていた周囲の目がオリベルへと注がれる。まさかのダークホースの出現に初めて警戒を見せることとなった。
かくしてオリベルの第二試合は危なげなくオリベルの勝利となり、幕を下ろすのであった。
♢
オリベルの試合を見ていたオルカは驚きに目を見開いていた。無論、オリベルの力についてである。強い強いと思っていたがまさかこれほどまでに強いのは想定外だったのだ。
オルカから見たオリベルの身体強化はギゼルのものと遜色ない程に洗練されたものであった。
しかし、あれほどまでに静かな身体強化魔法をオルカは養成学校時代にも見たことが無かった。ギゼルを「動」の身体強化魔法であるとするならばオリベルのそれは「静」の身体強化魔法である。
「これでまだ属性魔法を見せていないなんて。どれだけ隠しているのですか」
この世界では皆がすべての属性を好きに扱えるわけではない。身体強化魔法は属性魔法の基礎であるため、理論上誰でも使えるようになるのだが、属性魔法には人それぞれに一つだけ適性がある。
例えばオルカであれば爆発属性、オリベルと一試合目に対戦したカルロスであれば火属性に適性を持っており、他の属性を使うことはできない。
そして属性魔法は多くの場合強力なものである。それをオリベルはこれまでの試合でまだ一切見せていないのだ。
「オルカ、どうだ? 勝てたよ」
嬉しそうにオルカの方へと歩いてくる白髪の少年オリベル。強者とは思えない子供っぽい誇らしげな口調にオルカは苦笑する。
「あなたの本番は三試合目でしょう」
「ぐっ、ここは素直に褒めてくれてもいいじゃないか」
「あなたなら二試合目は大丈夫なことが分かりきっていましたからね」
まだ会ったばかりだというのに妙に買ってくれるそんなオルカに首を傾げるオリベルであった。
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