第6話 試験開始

 受験者数は二百名。そしてその中から三十名だけが選ばれる。

 トーナメント形式であるならば三回勝てば部隊へ入ることが確定する。二回目までしか勝てなかった者は隊長達の判断によってどの者が入隊するのかを決める。


 もちろん、オリベルには試験に合格する自信があった。しかし、ここに来る者達は誰もが猛者ばかりである。

 若い頃から鍛錬を続け、注目され続けてきた才能たちが集結している。そんなところで果たしてオリベルが勝ち進めるのかどうか。


 そうこうしているうちに一試合目が始まる。オリベルは10試合目の出場だ。しかしこんなに人が集まることはオリベルには想定できなかった。

 もしかすれば二日目もあるかもしれないなと思ったオリベルは『キャッツ』にて今晩の寝床を予約しておけばよかったと後悔する。


「ほう、今年の受験者たちは粒ぞろいだな」

「ですね。ここまでの人材が集まったのは初めてです」


 ボソリとつぶやく隊長達の声がオリベルの耳にも届く。オリベルが思っていた通り、やはり今年はレベルが高いようだ。


 オリベルは会場を見渡してある人物を探すもここには居ないことを悟り、少しがっかりする。もしかすれば久しぶりにステラと会えるかもしれないと密かに期待していたのだ。

 しかし、ウォーロットの英雄ともなれば常に魔物との戦いの先陣へと出向いており、僅か二年で実力をつけてしまったステラも当然そちらへと行ってしまっているのだ。


「入団すれば私達もステラ様に会えるのかな?」

「第三部隊以上に入れれば会えるんじゃない? それ以外の部隊は王都に居ないから無理かもしんないけど」


 試験の間、受験者たちが口にするのはステラの名前だ。五年前、センセーショナルに発表されたウォーロットの英雄。

 その戦果は歴代の英雄と比べても別格で英雄になってからわずか三年で神と名の付く魔獣を一体撃破したのだ。


 その時期からウォーロット騎士団への入団を志す若者が国境を越えて増え、今回のこの受験人数となった。


「第三部隊以上に入れればステラに会えるのか」

「あら、あなたもステラ様に会いたいだけのミーハーなのですか?」


 オリベルが周囲の言葉からそう呟くと、突如として背後から刺すような声が聞こえてくる。

 先程、セリューテ養成学校をトップの成績で卒業したという黒髪黒目のオルカという女性であった。


「え、えっと……そりゃ会いたいなって思っているけど」

「そんな心構えで入団試験に合格しようなんてとんだ甘ちゃんなのですね」


 初対面ながらにして次から次へと言葉の棘を刺してくるオルカに対してオリベルは少しムッとする。

 初対面でなくともここまでの罵声を他人から受けたことがないオリベルからすれば耐性が無いのだ。


「悪かったな、甘ちゃんで」

「悪くないと思いますよ。ただそんな心構えで挑んでいると戦場で死にますよと言いたかっただけですから。あなたは合格しそうですので」


 貶したり褒めたりと何かとせわしない言葉にオリベルは頭が混乱してくる。一体この少女は自分に対して何を求めているのだろうと。


「そういう君はどういう心構えで受けに来たのさ」

「当然国のため、そして人類のためです。魔獣に世界を半分支配されてからというもの世界中で人々は魔獣被害に苦しんでおります。救世の道を開くウォーロット騎士団こそ私の思い描く理想なのです」


 そう言ってオリベルの瞳をまっすぐ見つめるオルカの瞳には一切の濁りが無い。

 その瞳をオリベルは美しいと思う。美しすぎるがゆえにオリベルにはどこか建前のようにも聞こえてならなかった。


「てことは第一部隊に入るつもりなのかい?」

「当然です」


 目標ではなく当たり前のことであるという風にオルカが告げる。そしてきっとそれだけの実力があるのだろうとオリベルも思っていた。


「できれば君とは当たりたくないな」

「大丈夫ですよ。最初に言ったでしょう? 合格しそうだと。先程少しだけ見えた番号通りですと私とは決勝でしか当たりませんよ」

「い、いつの間に」


 オルカの口調では自分と当たれば確実に合格しないとでも言いたげであったが、オリベルはそんなことよりもいつの間に自分の番号を見たかが気になるのであった。


 そうしてオリベルがオルカと話していると、ちょうど8試合目の組み合わせの終わりを告げる声が聞こえてくる。


「あなた10試合目でしょう? 行かなくていいのですか?」

「あっ、ホントだ。それじゃあ」


 オルカに急かされてオリベルは一階へと降りていく。一階ではすでに対戦相手の男性が控え席の方で座っていた。

 中肉中背のオリベルとは違い、ゴツゴツとした筋肉にオリベルの身長くらいはありそうな棍棒のような武器を背負っている。


「よろしく」


 オリベルが手を差し出すも男性はオリベルの方を見ようともせず無視を貫く。

 きっと恥ずかしがりなのだろうと思い、オリベルは気にすることなく差し出した手を引っ込めて席へと座る。


「ちっ、こんな弱そうなガキ相手かよ。分かり切った試合もやらなきゃならねえってのが面倒だな」


 オリベルが席に座った途端に男性からそんな言葉が聞こえてくる。敢えてオリベルに聞こえるように言ったのだろう。

 そんな男性の態度を見てオリベルは少し腹は立つが口には出さない。何事も実力で証明すれば良いだけであることを知っているからである。


 そうこうしている間に9試合目が終わりを告げ、オリベル達の出番となるのであった。

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