【晴天アポカリプス】バトラー
ミチタリン
【晴天アポカリプス】バトラー
2100年 8月8日
軍需産業系列と見られる研究施設 廃墟にて
①「超長距離 電磁投射砲」に関する資料
②「閉鎖空間 電磁拡散砲」の実物残骸
が回収された。
発見者:バトラー型シンカロン フィデリアt-fkr
所属:工学研究院 人工神経学科 認知補強技術学部
黄金時代末期に存在した究極の超電磁砲開発資料と、
近接戦闘用に製造されていたプロトタイプの実物。
これらは現代におけるレールガン技術復興の、大きな手掛かりとなる。
有志の科学者集団「黄昏梟」の目的はただ一つ。
かつて人類が謳歌し、滅んだ時代を甦らせること。
誰もが緩やかな絶滅を受け入れている今の世界で、
黄昏梟は誰一人、座してその結末を待ちはしない。
見果てぬ夢へ、彼らはまた一歩近づいたが、
その称賛を受けるべき彼女は 帰ってはこなかった。
黄昏梟にまた一つ、癒えない傷が増えていく。
傷だらけの梟は、休まない。
勇敢に報いる方法を一つしか知らない無知な梟達は、
せめて大粒の涙に敬意を託して地に落としながら、
今日も羽を休ませることはできない。
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このレポートを、私が蘇らせた技術の全てを、
親愛なるパートナー フィデリアに捧ぐ。
解析者:エレカ・ローレンツ
所属:統計磁粒子研究センター 離散伝導技術実験室
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2100年 8月7日【崩壊する施設にて】
見つけた。
目にした瞬間に気付き、握った瞬間に確信した。
長い間私の中にぽっかりと空いていた空白が今、
パチリと音を立てて埋まったことが理解できた。
バトラー型シンカロンにとっての 武器 とは、
イカロス達にとっての飛行ユニット 翼 に等しい。
心身の一部であり、主との絆の証明そのものだ。
だから例え、
誰もいなくなったこの研究所で数十年の時を経て、
すっかり錆びついて、溶解して、破損して、
もはや鉄屑の寄せ集めになってしまっていても、
私にはわかった。
閉鎖空間 電磁拡散砲『ラピッドマンCRS』。
博士達を、この研究所を守る為に与えられ、
撃ち、磨き、共にここで過ごしたこの銃を、
忘れることなどできるものか。
「黄昏梟、探索司令部へ報告。
フラットランド郊外の研究所廃墟探索にて、黄金時代中期のものと見られるレールガンの残骸、及び、兵器開発資料を複数発見しました。
それと、えーっと...
準・緊急要請水準の戦闘の発生を報告。
ですが、自己解決した為、現在の緊急性は低く...
あ!その前にあれか。
...え~。
こちら、生体工学研究院人工神経学科認知補強技...
あ。もういいや。めんどい。要件だけ話します。
どうも、探索者のフィデリアt-fkrです。
通信機が全て破損してしまい連絡手段を失った為
メモリアルキューブに話しかけています。
施設内で、武装した火事場泥棒共と遭遇しまして。
とりあえず駆除しておきました。
よかったですねぇ。
私が戦闘ゴリラのバトラー型シンカロンで。
しかし戦闘の衝撃によって火災が発生している為
このボロっちぃ廃墟施設は間もなく崩落します。
私の方も損傷を受けて歩行も難しい状態ですので...
まぁ、帰還は難しいでしょう」
轟音を立てて、壁や天井が砕け落ちていく。
かつて私の守るべきものだった家が、壊れていく。
「メモリアルキューブに全ての情報を託します。
発見した資料は全て私の目に写して映像をリンク。
火災で何もかも燃えちゃうでしょうが
オリハルシリコン製のキューブは無傷で残ります。
あ、ちなみにオリハルシリコンを解析して
メモリアルキューブを応用開発した解析者は
私のパートナーのエレカ・ローレンツなんですよ。
凄いでしょう?以後、お見知りおきを。
資料の内容は...黄金時代末期に存在したとされる
『究極のレールガン』
の開発に関する経緯のようですね。
え~なになに...
超長距離 精密狙撃 電磁投射砲 ポストマン仮説...
...何だこれ?ヤバいですね。
こんなもん作って何したかったんですかね。
バカなのかな?黄金時代ってのは。
バカになってたんでしょうね、皆。
この資料から解析班がレールガン理論を解明し
技術の独占を防いでくれることを信じます。
…お願いだよ、エレカ」
飛び散ってきた鉄の破片が頬を掠めた。
あちこちで発生している炎が燃え盛り
崩落で狭まっていく空間に灼熱が充満していく。
暑い。いや、熱い。
熱いが、熱いと言った所で炎は止まってくれまい。
ならば私も止まってやらん。熱いが知ったことか。
さっさと資料を目に写し、映像をリンクしていく。
全く、つくづくできたシンカロンだよ、私は。
ここで失うには余りに惜しい逸材だ。アチッ!
何で感覚機能にオフスイッチをつけなかったんだ。
シンカロンの研究者はバカだったのかな?クソが。
「リンク完了。ふぅ。
これで私はほぼ仕事を終えられましたかね。
あとは最初に報告した、ボロっちぃレールガン。
貴重な実物なので残したいのは山々なんですが…
私がこれをいくら大事に抱えていても
崩落と火災から守ることはできません。
確実に残せるものはメモリアルキューブだけです。
私もこの銃も、瓦礫と熱の中に消え去るでしょう。
ま、奇跡的に回収してもらえたら嬉しい限りです。
このボロ銃、私にとってはとても大切な銃なので」
仮にこれを回収できたとしても、復旧は不可能だ。
電磁砲としてあるべき構造の全てが失われていて
解析する要素がどこにも残っていないのだから。
この銃はもう、死んでいる。
わかるもんはわかるんだからしょうがない。
ならせめて、私と一緒に...
崩壊の轟音が、空気を割るほどに劈き響き渡る。
飛び散る鋼鉄の破片が、身体を切り刻んでいく。
それがどうした?何を恐れることがあるものか。
この身は既に、この旅路に捧げられたのだから。
それよりも。
もっと違う感情が今。
湧き上がってきて止まらないんだ。
「世界が終末した日から数十年後。
私はシェルターの中で目を覚ましました。
仕える主も、守るべき場所も、なくしていました。
笑っちゃいますよね。
主人のいない執事。守るものがない守護者なんて。
生き残って、何の意味があるっていうんでしょう。
虚しかった。恥ずかしかった。消えたかった。
長いこと黄昏の時間に引き篭もって揺蕩って
ようやくシェルターの外に出ることになって
私はアテもなく黄昏梟の門を叩いたわけですが
それはまぁ、不純な動機でした。
半分は、現実逃避。
実は黄昏梟の人達を見る度にね。
バカなのかなって思ってました。正直。マジで。
衰退を受け入れた世界で何かジタバタ足掻いてる。
こんな無意味な世界で、何必死になってんのって。
でも、何やかんやで気になっちゃったんですよね。
私もバカになりたかったといいますか。
正気じゃやってられなかったから。
正義感とか、そんな高尚なもんじゃないんですよ。
もう半分は、場所がわからなかったこの研究所を
発見できる可能性が一番高いと思ったから。
ここ、かつて私が仕えていた施設なんです。
ここを守る為に造られた、バトラー型シンカロン。
それが私です。
だから、ここから外の世界には出たこともなくて。
ある日目覚めたら知らないシェルターの中ですよ。
納得できなくて、ただ家に帰りたかった。
それだけです。
ね?しょーもない打算でしょ。
廃墟になってることくらい、予想はしてましたし。
意味なんて、最初からどこにもありませんでした。
でもね。途中から気づいたんですよね。
意味なんてなくてもよかったんだって。
黄昏梟は、意味よりも、意義を探す人達でした。
無意味な世界の探求に、身も心も捧げた時間は
全部、全部、全部、全部。全部が有意義でした。
探索ってのは想像以上にキツかったですよね。
誰が泣き言喚こうが、誰も聞く余裕もないし。
後半になると皆、仏頂面で黙り込んじゃって。
全員の足音と、呼吸の音だけが聞こえてきて。
ザク、ザク。フー、フー。ガシャ、ガシャ。
淡々と続くその音が、私は大好きでした。
痛かったし、苦しかったし、キツかった。
でも、虚しくなかった。恥ずかしくなかった。
何も見つからなければ、みんなで溜息ついた。
何かを見つけられたら、みんなで大騒ぎした。
皆バカみたいに必死で、私だって必死だった。
いつの間にか私は、執事でも守護者でもなく
探索者のフィデリアになっていました。
役を失った私に、黄昏梟がまた役をくれたんです。
そして、今度こそ私が役目を果たせた日が、今日。
見つけるべきものを、見つけることができました。
それは明日も世界を飛ぶ仲間の為に。
見つけたかったものを見つけることができました。
それは役を演じ終えた私の胸の中に。
なんていうかね。いい気分なんですよ、今」
なんだ。私ってこんなにお喋りだったのか。
キューブに話しかける時間も、もう終わる。
まだまだ、話したいことが沢山あるのにな。
四方八方で燃え盛る炎の音が、パチパチパチパチ。
それはまるで、舞台を降りる私への拍手のように。
画像
「未知との遭遇はいつも突然ですよね。
この知らない衝動を、何て表現すればいいものか。
嬉しいです。幸せです。...違うなぁ。
...うん。
ありがとう。みんな。私は今、こんなにも。
こんなにも、誇らしい。
そっか...この気持ちが、誇りなんだね。
よかったな。みんなに会えて、よかったなぁ…」
例え
瓦礫と鉄筋の雪崩に四肢を抉られようとも
『世界を飛ぶ全ての梟の同志達へ!!』
濁流に飲みこまれて身体が形を失おうとも
『どうか、どうか、気高き黄昏を!!』
頭 コア 損傷 億メ リ 失 トモ
…
…
夏底の世界の不思議を
みんなで悩みながら解き明かすのは
本当に楽しかったんだ
身を削って傷ついても
みんなで前を向いて飛び続けるのは
本当に誇らしかったんだ
ねぇ
私たちは今度こそ間違えないよ
だからさ
どうか叶えて
『私たちの夢を 黄金の時代を!!!』
遠ざかっていくキューブに
祈りを込めて叫ぶ声だけが
鮮明に 透明に 残響した
【晴天アポカリプス】バトラー ミチタリン @yuura1714
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