クリスマスイヴのデートに誘われる

「はい、そこまで! 後ろから答案用紙送ってね」


 今日は中間テストの2日目、それもようやく終わり、皆安心したのかガヤガヤと朝の絶望した雰囲気とは打って変わり、今日のテストを乗り越えられた安堵感が教室を満たしている。


 それはあいつらも同様で──。


「見事に死んだ顔をしているな」

「真夜、なんでそんな余裕そうな顔してるんだよぉ」

「真夜君、それは死体蹴りだよ! 少しは励まそうと言う気持ちはないの!?」

「ない」

「「酷い!!」」

「あははは、真夜はスパルタだな」

「ふふふ、そうね。でも今日テストで出てた問題はこの前予習してたところよ、みーちゃん」

「うそ!?」


 ミミは金曜日にやった内容の事がすっぱり頭から抜けていたようだ。頭の中でご愁傷様と合唱しつつ、雄太にもテストの手応えを尋ねてみた。


「雄太はどうだったんだ?」

「俺は今回、それなりに出来てると思うよ」

「ほぉ、わざわざ日曜日の勉強会に参加していなかった事を考えると、噂の彼女とマンツーマンでもしてたのか?」

「な、なんのことだ?」

「あれれ? 柊君、なんだか顔赤くない?」

「気のせいだよ!」


 雄太は今回、平日だけ俺たちと勉強をしており、休日は別の人と勉強すると言って、俺たちと勉強しなかったのだ。


 最初はバンド仲間かとも思ったのだが、前回の件から考えると、それはないと判断した。なので必然的に彼女と一緒に勉強をしていた事になるのだが……。



(うーん、何というか余裕な表情だな……)



 雄太の表情は前回の期末と比べてかなり余裕そうな表情を浮かべており、そこには色々と一皮剥けたかのような雰囲気すら感じる。


(はっ! まさか……)


 俺は1つの真理にたどり着き、雄太に耳元で確認することにした。


「お前、まさかとは思うけど、彼女とヤッたか?」

「し、真夜!?」

「ばか、声が大きい」


 俺たちのやり取りを見て、3人が俺たちの方を見るが、直ぐに3人でこれからどうしようかという話に戻っていった。


「それは、お前が……」

「いいから。……それでヤッたのか?」


 再度尋ねると、顔を赤くしながらもコクリと頷く。


「ふっ、俺たち3人の中で一番早く、童貞を卒業したか……」

「い、いいだろ。別に……」

「つまりあれか。勉強を頑張ったご褒美と言う奴だな?」

「……あぁ、そうだよ! それの何がいけない」

「いいや? その彼女とは順当に育んでるんだなと思っただけだ。なら、明日はさぞいい思い出になるんじゃないのか?」

「そ、それは……」


 これは中々に面白い話だ。友人が真の男になったことを知れたのだから。まぁ流石にそんな話を聞こうとはしないけどな。なので、俺はバッグからとある物を取り出し、雄太に差し出した。


「……これは?」

「卒業記念として、俺からのプレゼントだ。俺の知人から貰ったんだけど、流石に恋人がいない俺には宝の持ち腐れだからな」


 雄太に渡したのは、とあるレストランの割引券だ。クリスマス限定のコースがあるらしく、かなり割り引いてくれる優れものだ。なぜ俺が持ってるのか? 担当編集者の響さんが『私は1人悲しく仕事だから』と言って、俺に渡したのだ。


「え、ここって確かこの間、テレビでも出てたところだよな?」

「そうだな」

「いいのか?」

「プレゼントだって言っただろ。使うもよし、使わないもよし、自由にしてくれ」


 雄太にもその彼女との予定もあるだろうし、その判断は2人に任せるべきだ。


「助かる。早速この後にでも聞いてみるよ」

「そうしてくれ」

「ねぇねぇ、さっきから2人で何話してるの?」


 俺たちの密談が終わりかけたタイミングでミミが乱入してきた。


「ちょっとした密談さ。な、雄太」

「そうだね。これは男同士の話さ」

「俺も男なんだけど……」


 そう高橋は仲間外れされたことに不服だとアピールしているが、俺たちは顔を見合わせて同じ言葉を高橋にプレゼントした。


「「高橋には言えないな」」

「何で!?」

「ふふふ。3人は本当に仲がいいわよね」

「わかるー。だからあの本が生まれた訳だしね」

「ふむ、コミケも近いし、そろそろ段取りについて、今度話すとするか……」


 そう、クリスマスも終わればその後に待っているのは今年最後のビックイベントのコミケだ。如月さんも日夜SNSで広報活動もしており、順当にフォロワー数も増やしている。


「そうだったわね。そろそろお話が聞きたいわ」

「私もー!」

「クリスマス終わりにでも皆集めて話すとするか」


 後で如月さんと九十九先輩にも連絡を入れようと決めた後、高橋からこの後どうするかという話に変わったので、俺たちは一旦昼を食べにファミレスに向かうことになった。



***



「明日はイヴかぁ」

「それがどうかしたのか?」

「真夜はなんか落ち着いてるな。好きな奴を誘わないのか?」

「生憎とその人にはがあってな。誘うのは諦めてる。だが、後日きちんとプレゼントは渡すつもりだ」


 何せ、真昼はお前とイヴを過ごす約束をあの日からしてるんだから、誘うことは出来ないさ。


「それ、脈無しじゃないのか?」

「高橋、俺に喧嘩を売りたいなら買うが?」

「高橋、それはデリカシーがないね」

「高橋君、それはダメだよ」

「健斗、酷いわ」

「げ、皆して……」


 誰一人、高橋を擁護する奴はいなかった。雄太とミミは事情を知ってるからこそ、こう言える訳だけど、まさか真昼からもそう言うとはな。


(まぁ普通に考えて、脈無しなんて言うのは失礼になるか……)


 そう結論付けた俺は、逆に高橋にイヴをどう過ごすのか尋ねてみることにした。


「そう言うお前はイヴはどうするんだ? もう知ってる事とは言え、明日は真昼と出かけるんだろ?」


 そう問いかけつつ、真昼の方に一瞬視線を向けたのだが、不思議と真昼の表情は普段と変わらなかった。


(顔すら赤くしない?)


 やはり先日の一件以降、真昼の中で意識が変化したのかもしれない。


「そうだな。明日は真昼とイルミネーションでも見に行きたいなって思ってるんだけど、真昼どうだ?」

「あら、健斗が確認してくれるだなんて珍しいわね。この時期のイルミネーションは綺麗だから是非行きたいわ!」

「そ、そうか。そりゃよかったぜ! あははは」


 以前までの俺ならこのやり取りで心が死んでいただろう。だが諦めないと決めたからか、俺の心はこの程度で揺れる事はなかった。だけど、イルミネーションか……。


「そういや、東京に来てからまだそういう所に行ってなかったな。精々街中を出歩くときに眺めた程度だな」

「真夜、東京のイルミネーションは綺麗だから是非見るといいよ」

「どこかおススメはあるのか?」

「渋谷や六本木、後は丸の内辺りは綺麗という話だ」

「雄太は?」

「俺は渋谷に行くつもり。……できれば会いたくはないけどね」

「その時は気を使って声はかけないさ」


 そう言ってやれば、ミミたちも皆して頷く。そしてミミは少し考える素振りをした後、俺に尋ねてくる。


「し、真夜君は明日どうするの?」

「俺か? ……野暮用を済ませたらそのまま帰る予定だ」

「野暮用?」

「あぁ」

「そ、それって誰かと会うってこと?」


 ミミはそう俺に尋ねてくるので、そうだと答えることにした。本当はミミの事なんだけど、高橋から変にからかわれるのも嫌だったので、濁すことにした。


「じゃ、じゃあさ、その、……それが終わったら、わ、私と見に行かない?」

「見にってイルミネーションをか?」


 そう尋ねると、ミミは顔を真っ赤にしてコクリと頷く。そして高橋は特大のニンマリとした顔で俺を見てくるので、チョップした。真昼はと言うと、物凄く不機嫌な表情になっている。


(真昼、もしかして本当に俺に気が向き始めてるのか?)


 ちょっと、いや、かなり嬉しい。だけどそれは一旦棚上げして、今はミミについてだなと思考を切り替えて答えることにした。


「俺でいいのか?」

「真夜君が、いい、です。はい……」

「分かった。なら、明日はイルミネーションでも見に行くか」

「っーー! うん!!」



 そう答えると、ミミは満面の笑みで返事をする。だけど、俺はその表情を見たことで察してしまった。



(ミミ、ついに自覚しちまったのか……)



 だからと言って、俺からは何かするつもりはない。ミミからきちんと想いを伝えて来ない限り、俺からは何もアクションを起こす気はない。……だから今はまだ、気づかない振りをしよう。それがきっとミミのためになると信じて。

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