たった1人だけの告白

 真昼が寝てからあれこれ数十分、空いてる手でスマホを操作していると、LIMEにメッセージが入っていることに気が付いた。


(そういえば、マナーモードにしてたから気付かなかったな)


 なのでメッセージを開いてみると、その相手はミミからだった。



:まひる、大丈夫?

:昼もちゃんと食べて、今はぐっすり寝てるよ

:よかったぁ


 またしても即レスだ。時間から考えても今、授業中じゃないのか? まぁそれだけ真昼の事が心配だったのだろうなと自己解釈することにした。それ以外の理由じゃない事を信じて。


:今日は助かった。雄太たちは大丈夫だったか?

:大丈夫だったよ! 柊君は笑いながら流石だねって言ってた

:あと、高橋君は真夜君が何も言わずにサボってることに驚いてたね


 どうやらミミは高橋には何も言わず、白を切ったらしい。


:そうか まぁ明日の言い訳については任せてくれ

:うん! 今日の放課後、そっちに行くからね

:春香さんにはもう伝えてある 玄関の鍵は開いてるから

:わかった!

:真面目に授業を受けろよな



 それだけ送り、俺はスマホを置く。ミミが来るのはまだ当分先だ。片手は真昼の右手を握っていて使えないから、本を読むこともできない。後でスマホでソシャゲでもしながら時間を潰すとして、とりあえず寝ている真昼の顔を覗くことにした。


(顔色は……、うん、大丈夫そうだ)


 寝ている真昼の表情は最初よりも全然良い。とは言え、まだ高熱であることには変わりはなく、顔もまだ赤い。それでも、大丈夫と言えるくらいには今の真昼の表情は落ち着いていて、可愛い。



(真昼……)



 そんな真昼を見ていたからだろうか、朝から張りつめていた緊張は少しづつ解けていく。


 人は緊張状態から解放されると、普段言わないことを言ってしまう事があると聞いたことがあるが、どうやら俺もそうだったらしい。


 絶対に真昼の前で言ってはならない言葉が口から出てしまった。



だ」



 俺は直ぐにはっとなり、真昼の顔を見る。寝息は変わらない、顔も赤いまま。表情もさっきと変わらない。なので真昼はちゃんと寝ていると判断し、安心する。


(何、言ってるんだ、俺は……、バカか!)


 心の中でそう、自分に暴言を吐いた。いくら寝ているからって、真昼の前で告白するとか一体何を考えているんだと、自身のさっきの行動について頭を痛めた。


 だけど、人というのはどうしようもない生き物で、一度口に出してしまうと、頭では分かっていても、感情がそれを許してくれない。


 それは俺も同じで、頭では言うなと分かっているのにも関わらず、結局はその後も言葉がつらつらと紡がれていってしまった。



「真昼の事が、なんだ……」



 もう言ってしまった。寝ていることをいいことに、語り掛けるように俺の中にある真昼に対する想いが溢れ出してくる。



「真昼は知らないだろうけど、俺は夏休みの時、一度だけ真昼を見た事があるんだ。その時、真昼は年配の女性の荷物を持って、一緒に横断歩道を渡っていた」


「最初は後ろ姿しか見えてなかったから、優しい女の子なんだな程度でしかなかったんだけど、女性から感謝を受けている時に初めて真昼の顔を見て、思わず見惚れちまった」




「一目惚れだったよ……」




「だけど真昼はさ、ほら、身長がちょっと小さいから、最初は小中学生程度だと思って諦めてた。……けど、転校先にまさか一目惚れした女の子がいるだなんて思わなかったよ。運命なんじゃないのかとさえ思えた」



「でも、真昼には幼馴染の高橋がいた。……傍から見ても両想いなのは分かった。付き合っていないと知って、まだチャンスはあるんじゃないのかと、そう思ってあの時、俺は2人に声をかけたんだ。もちろん小説のネタのためと言うのも本当だけど、本音はそっち」



「ファミレスで真昼には結婚の約束をしたのかと聞いたけど、実は高橋にも聞いてたんだ。そしたら2人して顔を赤くするもんだから、どうしようって思った。んでもって、その日の夜に決めた事があるんだ。と言っても本当は初日から決めてる事でもあるんだけどな」


「真昼の想いを優先にしながら、2人には悟られないよう少しずつ真昼の恋心を俺に向けさせようって。だからミミにも協力してもらって、色々中学時代の話とか聞かせてもらったよ」


 もう止まらない。次々とこれまで真昼と過ごしてきた思い出が言葉として出てくる。


「ショッピングモールで偶然真昼に会った時は驚いた。その時の真昼の恰好は本当に可愛かった。特にあのベレー帽が良かったな。あの時は遊びとして誘ったんだと真昼は思ってるかもしれないが、本当はデートのつもりで誘ったんだ。……本当に楽しかった」



「その後も色々あったよな。サイン会の帰りや、みんなでの勉強会。あぁ、真昼に俺の性癖バレた時は流石に背筋が凍ったなぁ。あはははは」



 何、1人で笑ってるんだろ。



「曼殊沙華を見に行ったあの日、初めて真昼に俺の素顔を見せた時、怖かった。……真昼に怖がられたらどうしようって。……けど、まさか綺麗と言うだなんて思いもしなかったな。おかげで余計に好きになった。見せてよかったって思えたんだ……」



「それからも真昼とは学校以外でもLIMEでメッセージでやり取りしたり、電話したりしてたな。どれも最終的には高橋の話題になるから困ったものさ……」



 その時、ゴソッと真昼の寝相が正面向きから、俺の方に顔を向くような態勢になった。


 一瞬起きたのかとビクビクしていたけど、ただの寝返りのようだったので安心した。そして再び、さっきの続きを話し始める。



「真昼が高橋と水族館デートの約束で大喧嘩した時、ようやくチャンスが来たと思った。……この隙を付けば、真昼の好意は少しでも俺に向くんじゃないかと思ったけど、……もうその頃の俺にはそんなことは出来なかった」


「真昼の笑顔が見たい、君に悲しい思いはさせたくない。そんな想いしかなかったよ。だからあの時、俺からデートに誘ったのは失敗だと思った。結果だけを見ればデートも成功して、本当に楽しい一日だったけど、ずっと悔いだけは残ってた。君は遊びだと思っているだろうけどね」



「後夜祭では、君を助けられて本当に良かったと思えた。あの時ほど、ミミに感謝したことはなかったな」


「……君に名前で呼んで欲しいと言われた時は、心臓がバクバクしてた。そして、いざ呼んでみたら、君の表情には嬉しいという感情が出てた。それだけで俺は、幸せだと思えたんだ」



「高尾山に登った時、あれは失敗だったなぁ。舞い上がってて、もっとちゃんと調べればよかったと反省してる。次はもう絶対に間違えないって決めてるんだ」



「いつだって、君といる時間は俺にとって掛け替えのないもので、幸せなんだ」



 思えば、転校してからまだ3か月半しか経ってないのに、真昼と過ごしてきた日々は今話したやつ以外にもまだまだ語り切れないくらい沢山の思い出がある。どれも俺の宝物だ。


 そして、俺はこの間の告白の話をし始めた。





「…………真昼から高橋が真昼の事を好きと言っていたと聞いた時、頭が真っ白になったよ。ついにこの日が来てしまったんだと思った」


「3か月程度じゃ、真昼の想いを変えられるなんて思っていなかったから、流石にこれはもう無理だなって、真昼を諦めようって、雫のように高橋との恋を応援しようって決めたんだ」


「それからの数日間は憂鬱だったよ。ミミたちからも心配されるくらいにはな」



「真昼が高橋に明日屋上に来て欲しいと伝えた時、心臓が締め付けられるくらい痛かった。でも後1日、後1日だけ我慢すれば、それも終わると思った」



「……2人が屋上から帰ってきて、恋人になれたと報告して、俺たちはそれを祝福する。そして俺は1人家で涙を流して、翌週からは真昼のただの友人、葉桜真夜はざくらしんやとして高校生活を過ごすんだと、そう決めてた」


「それが、悔いはあっても後悔のない俺の選択だと、そう信じてた。……けど、恋愛の神様はどうしようもないクズ野郎だったらしく、真昼に一番酷い仕打ちをしやがった」


 今でも思い出す。あの時の真昼の表情を。あんな辛そうな表情、もう2度と見たくなんてない。


「君の声が聞きたい。君の笑顔が見たい。君に、あんな顔をさせたくない……。そんな想いに突き動かされて、俺はあの時、必死に真昼を励ましたんだ。君に、幸せになって欲しいから……」


「ちなみにあの日、真昼に話かけなかったのは、話しかけたら未練に駆られて、普段の俺に戻れないと思ったからだ。子供じみた理由だろ?」



「だから君が元気になってくれたのは本当に嬉しかったんだ。猶予期間が出来てしまったが、まだ君の事を想える俺でいられると思えたしな」



「……でも、そんなのはもう無理だった。君が帰り際、俺の名前を呼んだ時、君の笑顔を魅せられた時、諦める、なんていう脆い決意は粉々に砕け散ったよ。君は気づいてないと思うけど、高橋とそれ以外で、見せる笑顔が違うんだ。高橋には親愛のこもった笑顔を、それ以外には普通の笑顔を」


「そして、君が俺に向けた笑顔は、……高橋に向けている笑顔のそれだったよ」



「それを魅せられてしまった以上、もう無理だった。真昼に対する想いを諦めるなんて俺には出来ない。どんな手を使ってでも真昼が欲しいって思っちまった。……それに、仮に高橋と付き合ったとしても、いつか絶対に真昼が悲しむ結果になると思ってる」




「……どうすれば、この想いが届くんだろうな」



 そこで俺は独白を打ち切る。そして次に込みあがって来たのはなんてバカな事をしているんだろうと言う愚かな感情だった。


「全く、真昼が寝てる最中に何を言ってるんだ俺は……。真昼が聞いてたら困らせるだけだろうに……」


 真昼はまだ寝ている。心なしか顔がさっきより赤くも思えるが、熱があるんだからこんなものかと思った。


 流石にこれ以上何かしゃべって、何かの拍子で起きたら大変なので、スマホを手にし、ゲームでもしながらミミが来るのを待つことにした。

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