俺は真昼にお昼を作る
真昼が目を覚ましてから、大体1時間ちょっと程経過した。途中泣いてしまうハプニングもあったが、意識自体ははっきりしているようで、もしかしたら病院に行かなくても大丈夫なのかもしれない。
今は真昼に背を向いた状態で座り、持参してきた小説を読んでいるのだが、さっきからずっと真昼からの視線を感じる。
本当なら少しでも寝て欲しい所だけど、起きたばっかりだし、意外と悪くない気持ちでもあるので、何も言わずにいる。
そうしていると、突如、"ぐぅぅぅぅぅ"っと何かが鳴る鈍い音がした。勿論真昼の方からだ。顔を真昼の方に向けると、それはもう見事なまでに、トマトのように顔を真っ赤にした真昼がいた。
思わず笑った俺を責められる奴は誰もいないだろう。誰だってこうなる筈だ。
「あはははは。流石にゼリーだけじゃ足りなかったか」
「っーーーーー!」
あまりの恥ずかしさから真昼は顔を布団で覆い隠した。そしておずおずと顔の上半分だけ外に出し、俺を見ている。
「食欲はあるようだな」
そう尋ねると、真昼は何も言わず、コクリとだけ頷いた。
「なら、少し早いけどお昼にしよう。風邪限定の葉桜家特製おかゆと、卵のあんかけうどん、どっちがいい?」
「特製? おかゆ?」
「そうだ。風邪を引いた時、俺の家族は皆それを食べるんだ。そうするとな、不思議と翌日には回復だ」
まぁ雪はそれが好きすぎて風邪じゃなくても母さんや俺にせがむから、最近は風邪限定じゃなくなり始めてるんだけどな。
「じゃ、じゃあ、おかゆがいいわ」
「任せろ。……それと、一度空気を入れ替えるから、ちゃんと布団の中に入ってろよ」
そう真昼に伝えた後、部屋の窓を開け、換気を始める。既に12月の半ば。昼前とはいえ、それなりに寒く、息が白くなった。
「それと、生活音がないと寂しいだろうから、部屋のドアは開けっ放しにしておくからな」
「う、うん……」
それだけ真昼に伝え、1階に降りていく。
(さてと、それじゃ作りますかね……)
藤原家の台所で料理を始める。他人の家で、真昼の看病の為に料理をする。何というかちょっと不思議な感覚だ。
普通シチュエーション的には逆なんだよなと思いながらも、真昼に俺の手料理を食べさせられると思うと、いつにも増してやる気が出てきた。
***
「真昼、入るぞ」
「う、うん」
まぁ部屋のドアは開けっ放しにしてるんだからわざわざ言う必要もないのだが、流石に女の子の部屋だからな。親しき仲にも礼儀ありと言う奴だ。
真昼の部屋にある小さなテーブルの上に、おかゆを乗せたおぼんを置き、ドアと窓を閉めた。
「寒かっただろ」
「少しだけ……。でも、風が気持ちよかったわ」
「そうか。そっちにテーブル持っていくからな」
そう伝え、なるべく床を傷付けないよう、テーブルを移動させる。
「いい匂い……」
「葉桜家特製、りんごと牛乳のおかゆだ」
すりおろしたりんごと牛乳でご飯を煮込み、その他味付けをすれば完成だ。生姜は好みで入れるけど、俺は入れない方が好きなので入れなかった。
それに、俺と真昼の味の好みは似てるから、これも同じだろうと思った。
「美味しそう……」
「まだ熱いから気を付けろ。ほら、あーん」
おかゆが入ってる容器から小さい容器におかゆを移した後、レンゲで掬い真昼の口元に近づける。
正直に言えば、あーんは流石に恥ずかしいけど、真昼のためだと思えば、自然と出来た。ゼリーでもやってあげたが、やはり好きな女の子にあーんをするというシチュエーションは世の男子なら一度は考えるロマンであり、当然俺もそのロマンには勝てなかった。
真昼は恥ずかしがりながらも、ゆっくりと俺が近づけたレンゲを口に入れ、おかゆを食べ始める。
「……美味しい」
「それは良かった。教えてくれた母さんには感謝だな」
「本当にシンヤって料理上手いよね……」
「葉桜家の家訓だ。なんでも頼るなってな」
「ふふふ、シンヤを見てたらなんだか分かるわ。……んっ!」
真昼は俺にさっさと次をよこせと口を開いて催促するので、苦笑しつつ、次の一口を用意して食べさせる。
(食欲もあるし、顔色も起きた頃に比べればだいぶマシになってるな……)
そのことに俺は安堵する。連絡をくれた優花ちゃんには本当に感謝しかない。
まぁそもそも付き合ってもなければ、変わり始めてるとは言え、真昼の中では、俺はまだ友達だと思われているはずだ。
にも関わらず、こうして頼ってくれて、春香さんにも信用されているのは嬉しい限りだ。
その後も俺は真昼におかゆを食べさせながら、軽い会話を続けていった。
***
「38.4℃か……。熱は上がってないようだな。これなら今日はまだ様子見でもいいかもしれない。明日になっても熱が下がらないようなら病院だけどな……」
少し早めのお昼を済ませ、洗い物を片付けた後、真昼の体温を確認していた。依然、高熱ではあるが、熱があがる素振りはない。ひとまずはこのまま様子を見ることにし、真昼には解熱剤を飲ませ、ベッドで再度横になってもらった。
「ありがとう、シンヤ……」
「気にするな。好きでやってるだけだから。病人は大人しく看病されてろ」
「うん」
冷えピタはまだ冷たいかと確認すると、ほとんど冷たく感じないと答えるので、新しいものに張り替えることにした。
「はぁ、気持ちいい」
「学校が終わったらミミもお見舞いで来るから、その時に体を拭いてもらうんだ。それまでは済まないが我慢してくれ……」
熱もあるし、汗もかいているだろうから拭いてやりたいのは山々だが、流石にそれは男の俺には出来ないからな。
そんなことを考えていたのだが、真昼から突如爆弾が投下された。
「……シンヤが拭いてくれないの?」
「ごふっ! い、いきなり何を言い出すんだ!?」
さっき空回りしていたと伝えたばっかりなのに、この子は……。
「ふふふ、冗談よ。わ、わたしも、恥ずかしいし……」
「だったら、言わないでくれ……。心臓に悪い」
「でも、シンヤもそんな顔、するのね。真っ赤よ」
「当たり前だ!」
まるでいたずらに成功したかのように真昼は笑う。
マジで勘弁してほしい。ただでさえ、熱で顔が赤い今の真昼は妙に色っぽくって、目のやり場に困ってるんだから……。
「ふふふ、シンヤも男の子だったわね」
「男じゃなければ、なんなんだ……」
「うーん、頼りになる男の子?」
「結局、男じゃないか……」
「ほんとだ」
やっぱり熱で少し思考がおかしくなってるのかもしれない。真昼は何がしたいんだ?
「なんかね、こうして2人しかいない世界っていいなぁって」
そんな俺の思考を読んだのか真昼はそんなことを呟いた。
「ま、時間的にはあいつらは今、昼飯を食ってる辺りか?」
「そうね。普段は皆がいるのに、今は私たちしかいないわ。それがなんだか不思議で……」
「楽しいのか?」
「うん。楽しいわ」
こんなことが出来るのも学生の特権なのかもしれないな。そう考えると、俺は今一番、青春をしているんだろう。こんな体験滅多にないわけだし。
そして、不意に真昼は俺の名前を呼んだ。
「どうした?」
「手、握って欲しいの。できれば、私の直ぐ傍で……」
その言葉を聞いて、心臓がドキっとびくついた。
「……看病が出来なくなるんだが」
「私にとってはそれが一番の看病だわ。ダメ、かしら?」
そんな風に言われてはもう何も言い返すことなんて出来やしない。なので真昼が寝ているベッドの上に座り、右手をぎゅっと優しく握る。すると真昼は『あ』と声を漏らすが、その表情は恥ずかしさと言うより、嬉しいという感情が表に出ていた。
「シンヤ、ありがとう」
「お安い御用さ」
そう感謝を伝えた真昼は徐々にうとうとし始めた。薬も効いてきて、眠くなってきたんだろう。
「ここにいるから、寝ていいぞ」
「手、離さないで……」
「分かった」
そう伝えると、安心したのか真昼はそっと目を閉じ、夢の中に入って行ったようだ。
(いい夢が見れますように……)
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