そして蓋は外れる(美美子視点)
*** 美美子視点 ***
「それじゃ私、まひるのお見舞いにいってくるねー」
「あぁ。山口、真昼の事頼むわ。俺、今日部活だし」
「また明日ね、山口さん。…………真夜にもよろしく」
「うん! まかっせてー」
その日の放課後、私は柊君と高橋君にまひるのお見舞いに行くことを伝えて、学校を出た。柊君だけはまひるの他に真夜君が今、まひるの看病していることを知ってるから私によろしくと小声で伝えてきた。
(まひる、大丈夫かなぁ……)
真夜君が看病してるし、彼から5限目の授業中にご飯はしっかり食べたと報告を貰ってるから大丈夫なんだろうという安心感はあるけど、それでもやっぱり心配なものは心配だ。
まひるはあぁ見えて我慢しちゃう子だから、どこかしら無理がたたったんだろうね。
(やっと、真夜君に会える……。早く会いたいなぁ)
それと、病気のまひるには申し訳ないけど、同時に私はこれから真夜君に会えるというのも楽しみで仕方なかった。
今日1日、彼がいなかったことで分かった事がある。それは学校がとてつもなくつまらなかったと言うことだ。勿論、そこにはまひるも含まれているけど、私の中の大多数は真夜君が占領していた。
だから5限目の時に、彼からメッセージを貰った時は物凄く嬉しくって、それまでやる気も出なかった授業が一気に身に入るようになった。
「それにしても、高橋君は鈍いなぁ……」
高橋君には今日、真夜君がまひるの看病のために学校をサボっていることを伝えていない。
彼はそんな真夜君がいない事について、『あいつ、もしかしてサボるのカッコいいとか思うタイプなのか?』と柊君と話していた。
私たち5人グループの中でまひるが風邪で休み、そして時同じくして真夜君が無断欠席という誰がどう見てもまひるのために休んだんじゃ? と想像付くにも関わらずにだ。
ちなみに咲ちゃんとこまっちゃんは気が付いており、『青春ってやっぱり最高だわ』と目を輝かせながら、呟いていた。
そんな2人は、高橋君よりも真夜君の恋を応援していて、最近ではクラス内でも真夜君派の方が勢力は上だったりする。
「真夜君……、真夜君、うぅぅ」
まひるの家に向かってるはずなのに、今日会えなかった分だけ、どうしても真夜君の事を考えてしまう。そんな私の足取りはいつもよりも軽かった。
***
:着いたよー 入っていいんだよね?
:鍵は開いてるから大丈夫だ
:だけど、真昼は寝てるからそっと来てくれ
私はまひるの家に着き、真夜君に連絡した。なんだろう、この変哲もないやり取りのはずなのに、彼から出来る彼氏感を感じてしまう。
考えても仕方ないので、私は真夜君の言う通り、ゆっくりまひるの家にお邪魔することにした。
「おじゃましまーす」
まひるの家は驚くほど静かだった。
(そりゃ、今、この家には2人しかいないから当然だよね……)
なので、そのまま2階へと上がり、まひるの部屋の前まで来た。
:まひるの部屋の前にいるよー
:そっと入ってくれよ
そうメッセージのやり取りをし、ゆっくりドアを開けて、まひるの部屋に入ることにした。
(真夜君だ!!)
まひるの部屋に入って最初に目に入った人物は真夜君だった。まひるは寝てるんだから当たり前なんだけどね。
だけど──。
(え!? な、なんで、真夜君がまひるのベッドの上に座ってるの?)
そして、よく見れば真夜君の右手はまひるの右手を握っている。それを見た途端、ぎゅぅっっと心臓が握られる感覚に陥った。
「よお、ミミ。昨日ぶり」
「う、うん、……そうだね。昨日ぶり、真夜君」
朝、電話越しに彼の声は聞いてるし、まひるが寝てるから今は小声だけど、やっぱり彼と面と向かって話す方が好きだった。それだけで嬉しくなる。
だけど、それよりも優先にする事がある。だって、今の状況の方が気になっているからだ。真夜君の近くに座り、その事を尋ねた。
「ねぇ、なんで、真夜君はまひるのベッドの上に? それに、手も……」
「ん? あぁ、真昼がこうしてくれってお願いしてな……」
「まひるが!?」
それを聞いて驚いた。まひるいつの間にそんなに大胆な事を出来るようになったんだろうって……。
でも同時に羨ましいとも思う。だって、真夜君と手を繋げるだなんて、そんなの最高過ぎるよ。
「まぁ、熱もあるし不安だったんだろう。今日は俺が来なかったら放課後まで1人だった訳だしな」
「確かに、そうかもしれないけど……」
「不服か?」
「うぇ!?」
突然、そんなことを言われたから驚いちゃった。私、顔に出てたのかな……。
「ミミは分かりやすいからな。特に俺に対しては」
「うぅぅぅ」
そうだった。もう彼には私の気持ちはある程度知られてるんだ。けど、私はまだ……。
「……ちょっと、だけ」
「こればっかりは許してくれ」
「大丈夫。まだ、大丈夫だから……」
「まだ……ね」
もうほとんど答えを言ってるような状態だけど、それでもまだ私は真夜君の事を好きだと思ってない。私の中にある彼に対する想いには蓋がされている。
「今日は授業とかどうだったんだ?」
「暇だったよ」
「即レスするくらいだったもんな」
「だって、まひるや真夜君がいないんだよ? 朝だって、真夜君と話すのが私の楽しみだったんだからね……」
「まぁ俺も朝、ミミと話すのは楽しいと思ってるよ」
そう言ってくれるだけでも嬉しさが湧き上がってくる。でも、それでも彼が好きな人はまひるなんだと、まざまざと見せつけられている。
でもそれは最初っから知ってた事だ。彼から直接そう聞かさせられていたから。でも──。
(私だって、こんなことになるなんて思いもしなかったよ……)
なんで、私は彼に惹かれてしまったんだろう。まひるは高橋君との1件以降、妙に真夜君と近くなったとも感じるし、その表情には好意がたまに見え隠れしている。これじゃ、少し前の真夜君と同じだ。
***
その後は柊君たちとの今日の話などをしながら、まひるが起きるのを待つことにした。その間もずっと真夜君はまひるを見ながら、手を握っている。
(いいなぁ、まひる……)
私も真夜君に手を握って欲しい。絶対に幸せな気持ちになれるって確信がある。
そんな風に真夜君を観察していたら、ある事に気付いてしまった。
(あれ? ……真夜君ってあんなに優しそうな表情浮かべてたっけ?)
まひるの部屋は、窓から入る残光で満たされている。満たされた光の中で染まる真夜君の表情は普段とは違い、寝ているまひるにとても優しい表情を浮かべていた。
それも飛びっきりの親愛がこれでもかというくらいにこもっている、そんな表情だった。そんな真夜君を見てしまい、思わず見惚れてしまう。
(あ、……ヤバい。気付いちゃった……)
まひるもそうだったけど、どうやら真夜君も同じだったらしい。好きな人とそれ以外とで向ける表情に違いがあった。それに気が付いてしまい、自分の中にある想いの蓋がズレていく感覚がした。
(ダメだよ。……それはダメだよ、真夜君)
知らなかった。好きな人にだけに向ける表情がそんな顔だなんて、知らなかった。知っちゃダメだった。
だってそんなの見たら私にも向けて欲しいって思っちゃうよ。
だからもう無理だった。心臓が煩い。顔も熱い。胸の奥から真夜君に対する想いが溢れ出す。もう蓋をする事なんて出来ない。彼の事が好きと言う感情が抑えつけられない。
(好き。真夜君が好き。私は真夜君の事が……好き。好き好き好き好き好き好き好き、……大好き!!)
ついさっきまで、まだ大丈夫と言った私はなんだったんだろう。もうさっきまでの私には戻れない。自覚してしまった以上、この恋心に決着を付けるためには告白しかない。
でも告白したくない。だって、告白したら振られちゃう。真夜君の好きな人はまひるで、私じゃない。そんなのは嫌だよ。
(これが、真夜君が感じてた気持ちなんだ)
そんなの辛すぎるよ。負けると分かってても想い続けるなんて、そんなの出来っこないよ。
(……まひるが羨ましい)
なんで高橋君と上手くいかないのか。そんな負の感情が私の中に渦巻いている。でも、そんなこと思いたくない。だってまひるは私の一番の友達なんだから。
「どうした、ミミ?」
「え!? ……う、ううん、何でもないよ」
「そうか?」
必死に真夜君にこの気持ちがバレないよう感情を押し留める。真夜君はそれでもいつかは気付いちゃうとは思う。
だけど、それでもどうか、今はまだ、気付かないで。貴方に恋をした私のために気付かないでください。
仮に気付いたとしても、どうか、どうか知らない振りをしてください。この溢れんばかりの恋心を私に思う存分、堪能させてください。
だからどうか神様、……どうかお願いします。
──まだ私に、諦めると言う選択を与えないでください……。
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