準備とメイド服

 文化祭まで後3日、その日の夜に雫から電話がかかってきたので出ることにした。


『どうした、雫』

『やっほー、真夜! 今、大丈夫?』

『こうして電話に出てる時点で、大丈夫に決まってるだろ』

『あははは、そうだねー』


 相も変わらず、明るい口調で話すなと俺は思った。だけど、このタイミングでかけてきたってことは頼んでいた諸々について目途が立ったということだと予想し、雫に尋ねてみる。


『電話してきたってことは、諸々の準備は出来たってことか?』

『そうだよー! もう、大変だったんだからねー』

『それはすまない。頼めるのは雫しかいないんだから、許してくれ』

『まぁ真夜からの頼みなんて滅多にないから、頼ってくれただけで許しちゃんだけどねー。あははは』


 確かに俺からあいつらに頼ることはそんなにないかも。だからなのか、この話を持ち掛けたとき、物凄く嬉しそうな口調で引き受けてくれたっけ。


『それにしても、まさか真夜に別の女の子がいるなんて思わなかったなぁ』

『茶化すな。山口はただの友達だ。ただまぁ、俺に好意を抱いてるということはなんとなく感じてるけどな』


 ここ最近、山口の視線だったり言葉使いだったりに友達とは違う雰囲気を感じる時がある。本人は否定しているけど、自覚するのも時間のうちかもしれない……。そういう風に想ってくれてるのは嬉しいんだけど、いざ自分が当事者になるとな。


(流石にこうなるのは予想してなかった……)


『あははは、真夜はモテるからねー。舞ちゃんも会いたがってたよ』

『……百瀬か。元気か?』


 百瀬舞ももせまい、中学時代からの友人で、多分あいつら以外で一番が仲が良かったと思う。そして俺が転校することがなければ恐らく……。


『元気だよ。真夜に会えないのは辛そうだったけどね』

『そうか。……元気だと伝えておいてくれ』

『連絡してあげないの?』

『今更、何を言えって言うんだよ……』


 別に仲が悪いという訳じゃない。ただ、何も言わずに転校することを決めたから、何をどう話せばいいのか分からないんだ。それを理解しているのか雫は『そうだね。私から伝えておく』と言ってくれた。


『助かる。まぁいつまでもこのままにはしたくないから、近いうちに何とかする』

『わかった。その時は私たちにも頼ってね?』

『あぁ、頼りにしてる。……それよりも本題に移ろう』


 前の友人を懐かしむのはこれくらいにして、俺は文化祭の件について話を進めるよう雫に促した。


『はいはい。えぇとね、まず山口さんの服については寸法の直しも終わったから、2日目に持っていくね。その時、どこかで試着ってできる?』

『クラスの担任にはもう話を通してる。家庭科部の試着室を使わせてもらう予定だ。それと調整もあるだろうから、時間になったら俺と山口は店番しないことになってる』


『いやぁ、まさか私の衣装を別の女の子が着てくれるなんて、私は嬉しいよ』

『雫は自分で作って自分で着る。だもんな』

『ふふふ、本当は真昼ちゃんに着てほしかったんじゃないの?』

『それは俺が一番思ってることだ。……流石に山口に申し訳ないから、絶対に口には出さないけどな』


 とはいえ、これでコスプレコンテストに向けた準備は終わったな。俺の衣装もこの間、寸法を合わせてもらったのでばっちりだ。なので、もう一つの方に話を移ることにしよう。


『ところで、もう一つの方は?』

『そっちはメイクだけだからね。後、については未来さんに頼んであるから安心して』

『助かるよ。俺が取りに行ってもよかったんだけど、先週末は寸法を調整した衣装の受け取りに、担当編集の人との打ち合わせで忙しかったからさ』

『でも流石に、卑怯じゃない?』

『レギュレーションは読んだし、生徒会長にも確認を取って、問題ないことは確認済みだ』


 それを聞いた雫は『完全に悪者だよね』と笑いならが言う。


『うるさい。どうせ3日目も来るんだろ? 楽しみにしてろ』


 俺の高校では1日目は生徒のみ、2、3日目は一般公開となっている。特に3日目は各種コンテストがあるため、割と他校の人らが来たりするらしい。そうなれば、必然と問題も出てくるんだけどな……。


 大体の話は終わったので、それ以降は普段の何でもない日常の話をしながらその日の通話は終わった。



***



 翌日の放課後、俺たち男子は女子の喫茶店用の試着が終わるのも今か今かと待っている。うちのクラスの女子たちはレベルが高い。故に今回用にアレンジされた制服姿を見るのはかなり楽しみなのだ。こればっかりは清水に感謝しかない。


 そしてついに、更衣室から喫茶店用の制服に着替え終わった女子たちが教室に戻ってきた。


「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」

「────」


 まさにメイドだ。それしか言えなかった。一般的なメイド服とは違うけど、そこには少し古風な衣装に身にまとい、清楚かつ綺麗さを兼ね備えた女子たちがいた。


 当然そこには藤原さんらもいる訳で、俺は絶賛、藤原さんのメイド服に目を奪われていた……。


「ど、どうかな?」

「ふふふ、男子ども喜べ―! 可愛い私たちが着てきたぞー」


 

「ま、まぁまぁじゃないのか? 子供体型のまひるにしては似合ってると思うぜ?」

「素直に似合ってるって言ってくれないの? 全く健斗は……。は、葉桜君はどう?」


「すまない、普通に見とれてた。うん、藤原さんのメイド服はかなり似合ってる。色合いもぴったりだ」

「そ、そう? あ、ありがとう」


 率直な感想だったんだけど、藤原さんは照れてしまったようだ。


「お前、よくそういう恥ずかしいこと言えるな」

「これが恥ずかしいと思う時点で、お前はまだ子供だな」

「なんでだよ!?」


 俺は続けて『そんなことよりも』と高橋の文句を受け流し、山口にも感想を言うことにした。流石に藤原さんにだけ言うのは不公正だからな。


「山口も似合ってるぞ。ただイメージの問題なんだが、山口にはもう少し明るめの色かが合うんじゃないのか?」


 そう尋ねてみると、米田さんが関心したように話に割り込んできた。


「よく分かったね、葉桜君。確かに美美子には白とか、もう少し明るめの色が似合うんだけど、残念ながら茶色しかなかったのよ……」

「へぇー、葉桜君、私のことそんなに褒めるんだー」

「ただの感想なんだけどな……」


 少し顔赤くしながらも山口は俺に感謝を言いつつ、『この後は葉桜君のかっこいい所をまひるに見せないとだね!』と満面の笑みで言ってくる。そこまで言われたら気合を入れるしかないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る