ダンスとコンテストの秘策

 文化祭の準備を始めてから既に約1週間が経過した金曜日の放課後。俺たちのクラスは運動部も積極的に参加してくれていることもあって順調に準備が進んでいる。なので、今日は後夜祭に向けたダンスの練習をすることになった。


「うへぇ、ダンスなんて適当でよくないか?」

「ダメよ、健斗。せっかく踊るならかっこよく踊りたいわ」


 そんな話を高橋と藤原さんはしている。あの2人、既に後夜祭で一緒に踊ることの約束をしていた。それを知ったときは、分かっていてもきつかった。一応俺も藤原さんに踊らないかと誘い、承諾は貰っているのだが、それでもやっぱり1人目として一緒に踊りたかったんだ。


(まだまだこれからだと信じるさ……)


 そんなことを考えていたら、せっかく誘ってくれた山口に申し訳ないので、気持ちを切り替えて、ダンスの練習に集中しようと思い、米田さんに尋ねた。


「米田さん、ダンスだとSwing Dance《スイングダンス》あたりになるかな?」

「そうだねー。男女ペアで踊るんだし、スイングダンスが一番いいんじゃないかな! バズってるダンスをやるってのもアリだけど、あれは基本1人用だしね」


 Swing Dance《スイングダンス》。簡単に言えば、ほとんど決まりのないダンスでリズムに合わせてステップやら回ったりする踊りだ。まぁ俺もほとんど知らないからにわか知識だ。


「マリちゃんって、絵も上手くて、ダンスもできるだなんて凄いなぁ」

「ありがと、美美子。私は多彩な特技を持つギャルを目指してるからね!」

「いつか、事務所からスカウトされそうな物言いだな」


 米田さんって俺が思ってる以上にハイスペックなんだなと思い知った。山口に聞いたところ、他にも料理や歌なども上手いとか……。


「藤原さんも高橋と言い合っていないで、練習しようぜ」

「むぅ、葉桜君も何か言って欲しいな。健斗ったら練習やりたくないって言うのよ!」

「そうなのか? なら、高橋とのダンスは諦めて、俺と最初に踊るか? 山口も別にいいよな?」

「わたし? まひるがいいなら大丈夫だよー」

「ちょっと待て、どうしてそういう話になるんだ!」


 少しだけ高橋の藤原さんに対する好意が前に出始めてきてるな……。この前の一件であいつの中で何かが変わったのかもしれない。


「だって、ダンスの練習したくないんだろ? 踊れない奴と踊るのは藤原さんが可哀そうだ」

「ふふふ、そうね。私もちゃんと踊れない人とは難しいわ」


 そう言ってやれば、高橋は反論が出来ず、『や、やればいいんだろ』とやけくそ気味に宣言した。何だかんだ藤原さんとは踊りたいんだろうな。そういえば後夜祭で一緒に踊った男女は結ばれるジンクスがあるんだっけか? 2人以上と踊った場合、どうなるんだろうな。


 なお、現在俺のクラスで後夜祭で踊るメンバーは約半分。誘われていない女子たちも当日誘われてることにかけているようで、今日の練習には参加するようだ。


 米田さんが『そろそろ始めよっか』と号令をかけたので、俺たちは米田さんが用意してくれた動画を見つつ、各々ダンスの練習を始めた。



***



 練習を始めて1時間ほど経ち、一度休憩することになったので、練習に雄太について話すことにした。


「それにしても、雄太が参加しないのは意外だったな」

「柊君? そういえばそうよね」

「柊は彼女がいるからな。2人で一緒に踊る練習でもしてるんじゃないのか?」


 高橋がそう答え、俺もそれが一番ありえそうだなと考えた。それと同時にとある事実にも気が付いた。


「つまり、後夜祭で雄太と踊ってる人が彼女ってことか……」

「柊、お前にだけはバレたくないって言ってるし、グラウンドで踊るかなぁ」

「あははは、バレない所で踊ってそうだよねー!」

「そこまでして秘匿したいって、雄太の彼女、何者なんだよ……」


 ここまで秘匿する以上、絶対に何かがあるはずだ。例えば、倫理観的に問題視されるとか……。と考えてみたが、友人の恋愛事情に首を突っ込み過ぎるのも気が引けるので、考えるのを止めた。


 その後、思い出したかのように藤原さんが俺と山口に『あ、そういえば』と目を輝かせながら尋ねてきた。


「2人ってコスプレコンテストに出るのよね? どんな服にするの?」

「実はね、まだ何も知らないんだよ。葉桜君が教えてくれなくって……」

「今、雫にお願いしてるところだ。この間、藤原さん経由で山口の身長からスリーサイズ等について送ってもらったからな。恐らく文化祭の2日目に持ってくるんじゃないかな」


 俺がそう答えると、全員の顔が俺に向き少し軽蔑した表情で見てくる。不思議に思い、俺が言った言葉を振り返り、やっちまったと後悔した。


「……あー、安心しろ。俺は何も知らんから」

「「「ほんとに?」」」


 女子3人からジト目で問いただされるが、事実なので肯定する。そんな俺の答えに納得したのか『まぁ葉桜君はそんなことしないか』と言ってくれたので、安堵する。


「すまん。言葉をもう少し選べばよかった」

「葉桜でも、そんなミスするんだな。あははは」

「間違いだらけのお前には言われたくないな。俺だって人間だ。間違いはするさ」


 高橋は少し拗ねるが、可愛くもなんともないので無視する。そして藤原さんは衣装について尋ねてきた。


「でも、雫ちゃんにお願いしてるってことは、雫ちゃんが着る予定だった衣装にするってことよね?」

「雫はコスプレ衣装を作るのが趣味でな。 元々持ってる奴から寸法を直してもらってるんだ」

「え、それって大丈夫なの?」

「問題ない。中学で1度、着たっきりの奴だから。むしろ我が子を他の女子に使ってもらえると分かって喜んでたよ」


 山口は自分用に直してもらっていることに感謝しつつ、雫について尋ねてきた。


「おー、じゃあ2日目になったらその雫ちゃんって女の子に会えるんだね! 楽しみだなぁ」

「ふふふ、雫ちゃん、とっても美人だから楽しみにした方がいいわよ」

「衣装もそうだけど、まひるがそう言うなら楽しみだー」

「衣装については楽しみにしていろ。きっと気に入るぞ」

「でも、葉桜君が執事服で行くってことは、それに合わせた衣装よね? と言うことはメイド服かな?」

「それは、当日の楽しみだ」


 そこで話を打ちきると、次は高橋が美男美女コンテストについて尋ねてきた。みんな、そんなに気になるのか?


「コンテストで言うと。葉桜、お前どうやって藤村先輩を負かすつもりだ? もう先輩らにも情報が出回ってるぞ」

「あ、それうちも気になる―! うちのグループでもその話題でもちきりなんだ」


 まぁほとんど一人勝ちみたいなところに、そこそこ整ってる奴が出たところで負けると思うもんな。なので、少しだけ情報を開示することにした。


「そこは俺だけが持つ、特徴を使うんだよ」


 それを聞いた藤原さんは『あっ』と思いついたようだが、他の人たちは何のことかまだ分かっていないようだった。


「あるだろ? このさ。当日、雫にメイクを頼んで傷を隠してもらうつもりだ。まぁ他にもあるんだけどな」

「え! つ、つまり葉桜君の素顔を拝めると!?」


 山口は食い気味に尋ねてくる。まぁ今まで見せていないんだから、そりゃそうなるか。そして藤原さんはなんだか、複雑そうな表情で俺を見ている。それを見て少しだけ嬉しさが込み上げてきた。


(あれってつまり、嫉妬……だよな?)


「傷を隠した顔ってだけだ。俺の本当の素顔じゃない。割とこの傷については愛着があるんだよ」

「傷に愛着があるって、お前やっぱり……」

「おい、高橋。中二病とか言ったらアイアンクローだ。……愛着があるのは傷を負ったことに後悔がないからだ。それと藤原さん」


 高橋はアイアンクローと聞いて青ざめた表情になり、ガタガタ震えだす。


 そしてまだ複雑そうな表情をしている藤原さんに声をかけると、少し拗ねたような声で『何?』と返してくるので苦笑する。


「さっきも言ったが、傷をの顔を見せるだけだ。今のところ傷ありきの顔を知ってるのは藤原さんだけだぞ」

「……な、なに言ってるのよ、葉桜君! 私は別に何も思ってないわ」


 俺の言葉を理解したのか、藤原さんは明らかに顔を赤くしている。それに気が付いた山口、米田さんはニヤニヤしている。


 女子たちがそんなやり取りとしている中、高橋だけは俺を見て、警戒した表情で俺を見ながら、尋ねてくる。


「葉桜ってさ、真昼のこと……」

「友達だが?」


 即答すると、高橋は『そ、そうか』と答え、それ以上追及することはしなかった。

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