第2話
「ところで、今回の任務はどんな内容なんですか?」
言いながら私は、手枷に囚われた両手をカーオーディオに向けて伸ばしました。すると、その手はすぐさま払われました。涙目になって、藤尾さんを見つめました。ただ久しぶりに音楽が聴きたかっただけなのに。
「
「街って、どこのですか」拗ねた女みたいに言ってみました。
「ここだ」
私は藤尾さんの顔から、フロントガラスに視線を移しました。いつの間にか、景色が大きく変わっていました。なんだか妙に明るいというか、輝かしい景色になっています。今走っているのは大きな通りで、両脇にはたくさんのお店が並んでいました。看板から察するに、バーや居酒屋、麻雀、もしくはもっと大人なお店、その他いろいろと楽しそうなお店がたくさんあります。ちらりと見た限りでは、どのお店も繁盛しているようでした。対向車も絶えません。
正面にある大きな建物に目を向けました。通りの終端に位置するそれは、とても高くて硬派なビルで、ヘリポートらしき頭頂部から、ギラギラと眩しい灯りを夜空に放っていました。
「『始まりの街ブロンド』と、そう名乗っているそうだ。近年、加速度的に人が増え、経済も目覚ましく発達しているらしい」
日本の経済が地に落ちてからは、そういう風に勝手に街をつくる集団も増えてきたそうですね。獄中生活中、看守の世間話を盗み聞いて知りました。
「夜の街というやつですか。こういうところは不慣れなので、ちょっと嫌ですね」
「そうだな。吐き気がする」
言いながら、藤尾さんはスピードを上げました。私、そこまで強く言ったつもりはありませんけど。とはいえ初めて意見が一致しました。これは仲良くなるための第一歩になるでしょう。
ふと、道の片側から妙に強くて赤い光が飛び込んできました。同時に騒がしい歓声と悲鳴も聞こえてきたので、窓の外を見てみますと、そこには大きな炎が見えました。
「うえ……なんですか、あれは」
見えたのは、立ち上る火の粉。騒ぐ群衆。叫び声。それは火刑の現場でした。おおきな木の柱に中年の男性が縛り付けられていて、足元に火が燃え盛っています。男性は既に下半身が焼け爛れた状態で、苦痛にまみれた表情を浮かべながらも、狂ったように笑い、叫び続けていました。私は思わず顔をしかめました。
走行中の窓にそれが映ったのは一瞬でした。藤尾さんは眉間のシワを深くしつつ、まっすぐ前を見て、さらにスピードを上げました。
「見せしめだ。あれがこの街の仕組みなんだよ」
「仕組み?」
「この街にいる人間は全員、あのような恐怖支配に快感を覚えるんだ。おそらく街全体に、奴の
「うえぇ、悪趣味な街です」
たしかに藤尾さんの言った通り、吐き気がします。
えづきを押さえていると、隣からまた舌打ちが聞こえてきました。
「お前も同じだろ。吐き気がするクズってのは」
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