捜査協力
「志葉さん!!どうしてここに?!」
三人の若手捜査官が憧れの公安部所属のエリートの登場に背筋を伸ばした。
「進捗は?」
「順調です!」
「もう犯人も分かりました。」
「動機も証拠もばっちりです!!」
「そうか.....。」
志葉の後に続いて部屋に入ってきた青年に皆、顔を顰めた。
「こちらは捜査協力者の霧野 友哉さんだ。捜査協力をしてくださる。」
「霧野 友哉です。よろしくお願いします。」
人好きの笑顔を浮かべる青年に捜査官たちはさらに顔を顰める。
「捜査協力なんて必要ありません!」
「犯人は松本で間違いないんです!!」
「証拠だって揃ってるんですよ!!!」
「証拠?」
青年、改め霧野は写真や文字の散りばめられたホワイトボードを覗き込む。
「勝手に見られては困る!!」
「部外者は出て行ってくれ。」
「僕は正式にその志葉さんから許可を頂いてますよ。ねぇ、志葉さん?」
くすりと微笑む霧野に志葉は「はい」と答えながらも内心で溜息を吐いた。
「松本ってこの松本 翔さんって男性ですね。ストーカー行為って書いてますけど、警察に届けはあったんですか?」
「近所の交番に。そこから所轄が担当し、要観察となっていた...。」
「要観察?つまり、放置してたってことですね。警察の大好きな“事件性はない”っていうアレですか。」
「馬鹿にしているのか!!俺達警察はな、そんな小さなことに構ってはいられないんだよ。時間は有限だ。もっと他に、殺人犯や凶悪犯を追わなきゃいけない!!」
「でも、放置しちゃったから、貴方達が追わなきゃいけない殺人犯が生まれちゃったんですよね?」
なんの悪気もないような声と仕草で、霧野は松島を見つめた。
言葉を失い、歯軋りを響かせるしかできない松島から霧野はそっと視線を外す。
「松本さんが犯人だって証拠はなんでしょうか。」
「ガイシャ...あ、いえ……被害者のつけ爪に松本のDNAが検出されました。」
「DNA……皮膚ですか?」
「えぇ。恐らく襲われたとき、抵抗したものかと...。」
「被害者女性の死因は?」
「窒息死ですね。首にビニール製の紐で縛られた跡があります。」
「本当ですね。角度的に上から吊るようにして締めたんでしょうね。」
「そうですね。恐らくこんな風に……。」
と、三人の中では比較的友好的な竹島が身振り手振りで答える。
「証拠はDNAだけですか?」
「十分な証拠だろう。被害者女性が抵抗したこと。そして、その相手が松本だった。それに動機も十分だ。」
「ストーカーだったから?」
「分かっているならもういいだろう!さぁ、捜査ごっこは終わりだ。俺達は忙しいんだ!!」
「志葉さん!ご期待に添えるように頑張りますので!!」
男達の態度に志葉は今度こそ溜息を吐いた。
そして、この後の展開を想像して頭が痛くなりそうだった。
「でも、これ変じゃないですか?」
「何がだ!!!」
まだ退出しようとしない霧野に苛立つ松島・梅島。
そんな態度など気にも留めず、霧野は女性の写真を指差す。
「つけ爪でしたよね、これ。彼女は大雑把な性格なのでしょうか。ほら、つけ爪のサイズが合ってない。小さくて自爪が見えてしまっていますよ。」
「それが何だっていうんだ。」
「彼女は元々ネイルを好んでいたんですか?彼女の職場はネイルが許可されているんですか?」
「はぁ、分かったよ。竹島、電話してやれ。」
「分かりました。」
竹島、と呼ばれたのは先ほど身振り手振りで霧野に話していた友好的な捜査官だ。言われた通りに被害者の職場へと電話を掛ける。
「……え、ネイルは禁止ですか?そうですか...。」
「彼女の出勤スケジュールも聞いてください。長期休暇の申請などはあったかどうかも併せて。」
「え、は、はい!」
横から口を出す霧野。竹島は言われた通りに質問する。そして電話を切った。
「長期休暇の申請はなかったみたいで、翌日も出勤予定だったみたいです。」
「それが何だっていうんだ!!ネイルが禁止だからつけ爪をしてただけのことだろう。」
「明日には取らないといけないのにそんな面倒なことしますか?もし彼女がそんなまめなタイプなら、もっと自分のサイズにあったつけ爪を用意するんじゃないですか?」
「じゃあ、何だっていうんだ?!誰かにこの爪をわざわざ着けられたとでも言うのか!!」
「その可能性はゼロじゃないって言ってるんです。」
叫んだわけでも、声を張り上げたわけでもない。
だが、霧野の言葉は男達を黙らせるほどの威力があった。
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