第3話:崩壊した世界とゾンビ
スタッフルームのドアをそっと開けて外の様子を確認すると、再び異世界の暗闇が広がっていた。セルフスタンドの敷地内は光に包まれ安心できるが、その外側は相変わらず何も見えない闇だった。どうしてもこの世界の状況が気になり、敷地の端にある金網のフェンスへと足を向けた。
フェンスの向こう側に立つと、闇の中で何かが動いているのが分かった。最初は風に揺れる影かと思ったが、次第にそれが人間の形をしていることに気づいた。ただ、その動きはぎこちなく、まるで壊れた人形のようだ。
目を凝らしてみると、それは明らかに異様な姿だった。皮膚は剥がれ、骨が露出し、腐った臭いが風に乗って漂ってくる。目の奥には赤い光がぼんやりと浮かび、こちらをじっと見つめていた。
「ゾンビ…」
思わずその言葉が口をついた。動く死体なんて、映画やゲームの中でしか見たことがない。それが今、目の前にいるなんて信じられなかった。
さらに周囲を見渡すと、暗闇の中から次々と同じような姿が現れ、フェンスの外側に集まってくる。彼らはゆっくりとした動きで金網に手をかけたり、顔を押しつけたりしている。だが、それ以上こちらに侵入してくる様子はない。
敷地の灯りが守ってくれているのかもしれない。ゾンビたちはその光に反応せず、ただ闇の中を彷徨っているようだった。
「いったい何があったんだ…?」
目の前の光景を見ながらつぶやく。フェンス越しに遠くを眺めると、崩壊した建物の影がぼんやりと見えた。瓦礫と化した街並み、ひび割れた地面――荒廃しきった世界がそこには広がっていた。
やがてゾンビたちは突然動きを止め、一斉に別の方向へ歩き出した。何かを感じ取ったのか、それとも別の目的地があるのか分からない。ただ、その背中を見送りながら、この世界がどれほど危険なのかを痛感した。
スタッフルームに戻り、冷静になろうと深呼吸を繰り返す。このセルフスタンドがなければ、自分もあのゾンビたちのようになっていたのだろうか。そんな不安が頭をよぎる。
POSの青いボタンを見つめながら、この設備の光が持つ力を改めて実感する。外の暗闇とゾンビの脅威を思えば、この場所がどれだけ貴重で安全な拠点であるかが分かる。
だが、この世界にはほかに生き残っている人間がいるのだろうか。もしいるとしたら、彼らもこの暗闇とゾンビに怯えながら生活しているのかもしれない。
「生き残るためには、ここをもっと活用しないといけないな…」
自分自身に言い聞かせながら、スタッフルームの椅子に腰を下ろした。現実と異世界をつなぐこの場所が、俺にとって唯一の希望なのかもしれない。
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