第7話 熱い心
スーパーで買い物してから一緒に帰宅した。
帰宅してもまだ心臓が脈打つ。
あくまでこの部屋に女子がまた来る。
俺のこの汚い部屋に。
それがありえないと思っているから、だ。
現実味を帯びてない。
「...やれやれ」
そう呟きながら掃除をしようと思い立ち上がった時。
インターフォンが鳴った。
俺はビクッとしながら掃除用具を落とす。
それからドアを開ける。
そこに...七瀬が居た。
「こんばんは」
「...あ、ああ。こんばんは」
「じゃあ早速作りますね」
「...あ、ああ」
俺はゆっくりソファに腰掛ける。
それから調理を始めた七瀬を見る。
そんな七瀬に聞いてみる。
「何を作るんだ?」
「あ、味噌カツです」
「...また凄いものを作るな...大丈夫なのか?」
「はい。私...実は味噌カツが一番の得意料理なんです」
「え?」
「大阪出身でも無いですけど。...でも何でか得意なんです。よく分かりません」
そう言いながら花が咲く様な笑顔になる。
そんな彼女の髪の毛を見る。
そこに先程の可愛らしい髪留めがあった。
俺は苦笑する。
「もう着けているんだな。髪留め」
「...はい。だって嬉しかったです」
「俺なんかから貰って嬉しいのか?...流石にそれは...」
「嬉しかったです」
そう力強く言う七瀬。
それから俺を見据えてくる。
俺は「...!」となりながら彼女の強い眼差しを見る。
そして彼女はこう言った。
「...私を女の子として見てくれた証ですから。最初の証です」
「お前...」
「私は...女の子として見られませんでしたから。...あの人と先輩以外は」
「...あの人...か。...そうなんだな」
「...はい」
あの人、が何なのか分からないが問うて答えてくれるとは思えない。
だから俺は聞かない事にした。
それから複雑な顔をしている七瀬の横に行く。
そして七瀬を見た。
「...七瀬。無理はしないで作ってくれよ?」
「...え?」
「お前は飛ばし過ぎな一面もあるから」
「...あ、は、はい...」
「...」
そして俺は七瀬を見る。
七瀬は「...ありがとうございます」と柔和になって俺を見る。
それから胸に手を添えて赤くなる。
俺はその様子に「何か出来る事はあるか」と笑みを浮かべて聞いた。
「じゃあ...調味料を開けてもらって...」
「分かった」
それから俺は七瀬の指示通りに味噌を開けたりする。
そして「ここまでで大丈夫です」と言われるまで手伝った。
そうしてから俺はソファに腰掛ける。
良い香りがしてきた。
☆
「お前はどこで生まれたんだ?」
「この町では無いです。北海道だって聞きました」
「...そうなんだな」
「はい。...だけど出生は定かじゃ無いです。...私は...親に全く聞かされて無いですから」
「...」
その言葉に俺は七瀬を見る。
この場所にはご飯、味噌カツ、野菜、味噌汁がある。
こんなご飯はかなり久々だ。
正直言って...コイツの旦那になる人は幸せだろうな。
「...あの?」
「...ああ。すまん、見過ぎたな」
「は、はい」
「...お前は可愛いよな」
そう言いながら俺はご飯を食べる。
すると七瀬は「...その可愛いっていうのは私以外にも言ってます?」と聞いてくる。
俺は「?...いや。蓮も無いしお前が初めてだな」と答えた。
七瀬はみるみる赤面していく。
「...そ、そうなんですか?...私なんかに?」
「いや。お前可愛いじゃないか」
「可愛いって...可愛く無いですよ...私は男勝りだったし...」
「だがお前の性別は女性だろ?...聞きたいんだが...お前何で...」
「...それは答えられないです」
深刻そうな顔をする。
というか寒気すら感じた。
俺は「...そうか」と返事をしながらそのまま黙る。
そしてご飯を食べるのを再開する。
「...先輩。私は...貴方を変な目に遭わせたく無いんです」
「変な目に?」
「はい。だから私は貴方に...教えないんです。...そういうの」
「...そうだったんだな」
「はい...ごめんなさい」
いや。謝れる必要はないんだが。
そう思ったのだが...言葉が出なかった。
というか何か。
怒りが湧く。
それはコイツに、ではない。
「...」
自分自身に腹立つのだ。
そういうのをわざわざ聞く必要はないしな。
そう思いながら俺は味噌汁の具を見る。
そうしていると七瀬は「だけど」と切り出した。
顔を上げる。
「...いつか私が...先輩に助けて欲しい時には」
「...俺?」
「はい。先輩なら信頼出来ます」
「まさか。...俺は単なる隣...」
「いや。私を助けてくれたから。...女の子として認めてくれたから。...2回も助けてくれましたから」
俺は驚きながら静かに七瀬を見る。
それから七瀬は微笑む。
何だろうなこの暖かさは。
忘れている全ての感情が...蘇ってくる様な。
そんな感覚だ。
冷めた湯が...また熱くなる様な。
「...お前は不思議な人だよ」
「え?」
「お前見ていると...世界はまだまだ捨てたもんじゃないって思う」
「先輩?」
「ありがとうな。七瀬」
そして俺は七瀬の手を握る。
すると七瀬はビックリしたのか握られた手を勢い良く引っ込めた。
それからみるみる真っ赤になっていく。
俺は、また馬鹿な真似をしたな...、と思いながら額に手を添えた。
「ゴメン。七瀬。調子に...」
「え?あ、こ、これはち、違います」
「...へ?」
「...」
七瀬は首を振る。
それから「...違うんです」と呟いた。
そして胸に手を添える。
え?
不良に襲われていた体操着の王子様を助けたら実際は何故か体操着ばかり着ている美少女だった。その翌日からスカートを履いて来る様になったんだが? アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。不良に襲われていた体操着の王子様を助けたら実際は何故か体操着ばかり着ている美少女だった。その翌日からスカートを履いて来る様になったんだが?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます