第6話 うぶぁ...。


俺は別にアイツに恋をしていた訳じゃない。

だが...正直、気になっていた、という部分はあると思う。

だけど関係性は全てリセットされている。

だから記憶が戻らなくても。


そう思いながら俺は放課後を迎える。

昼間はお弁当を分けてもらい。

一緒に食べた。


「...」


欠伸をしながら俺は立ち上がる。

それから俺は帰宅する為に教室を後にしていると下駄箱で...彼女が待っていた。

彼女っていうのは七瀬である。


「...七瀬?どうしたんだ?」

「あ...先輩。...一緒に帰りませんか」

「...は...何だって...!?」

「同じ方向じゃないですか。帰るの」

「い、いや...まあそうだけど」

「食材も買いましょう。...ね?」


しかしこうして待たれると...その。

恋人の様に感じる。

そう思いながら俺は七瀬を見る。

七瀬は少しだけ複雑そうな顔をしていた。


「...先輩。...緑川先輩は...」

「ああ...彼女なら用事があるって...」

「そうなんですね」

「...ああ」


そして俺は下駄箱から靴を取り出した。

それからローファーを履いてから七瀬を見る。

七瀬は俺の姿を見つつそのまま同じ様にローファーに履き替えて表に出る。

そうしてから歩き出す。


「不思議なもんだな」

「何がですか?」

「いや...こうしてお前と帰る事になろうとはな」

「はい。...そうですね」


七瀬は俺を柔和に見てくる。

それから七瀬と一緒に俺はスーパーに来る。

スーパーでは肉や野菜を買った。

そして俺達は帰宅しようとした時。


「...あ」


と七瀬が声を上げた。

それは...女性もの用品を取り扱った店。

つまり髪留めとか売っている店。

だがそれを一瞥してから「行きましょうか」と言う。

その言葉に俺は考えてから「少し寄ってみないか」と話をした。


「え?」

「...何かお前に似合うものがあったら良いじゃないか」

「...私には...似合いませんよ」

「似合うって。絶対に」


そして俺はイヤイヤながらも七瀬を引っ張って店に入る。

すると若い店員さんがやって来た。

「是非、色々と見て行って下さい」と言ってくる。


俺はその言葉に挨拶をしてから店内を見渡す。

だが...七瀬は乗る気じゃない。

寧ろ...何か複雑な顔をしていた。


「...七瀬?」

「あ、は、はい」

「店から出るか?」

「...違うんです。...ただ」

「...ただ?」

「性別を否定されて男らしさを求められていた私には似合わないなって」

「...それはどういう意味だ」


ハッとする七瀬。

今のはうっかり口が滑った、という感じだな。

俺は七瀬を見る。

七瀬は「...」となってから涙を浮かべる。


「...」


俺は無言で考え込みながら店員さんに聞いた。

「彼女に...似合うものってありますか?」という感じで、だ。

すると店員さんは「はい」と言いながら髪留めを真剣に考えてくれた。

そうしていると店員さんは「どうせなら全身をお洋服でコーデしてから決めませんか?」と笑顔になって言ってくる。


「コーデ?」

「はい。...お二人はカップルさんですよね?」

「?!」

「...え?あ、ち、違いますか...!?」

「い、いや...その」


オドオドしている俺に対して七瀬が「はい」と返事をし...は?

俺は赤くなる。

俺は「お、おい!?」となるが。

七瀬は「今はそれで貫きましょう。...じゃないと面倒です」と言ってくる。


「た、たしかにそうだが...」


そして七瀬は「お願いします」と言ってからコーデをしてもらう。

俺はその間、店のベンチに腰掛けていた。

それから「お待たせしました」という店員さんの声に行ってみる。

思いっきり見開いた。


「...ど、どうですか。先輩」


そこに居たのは...スカートに可愛らしい洋服。

そしてはにかんでいる美少女。

髪留めが相当に似合っている...。

あまりの衝撃に俺は言葉を失った。

可愛すぎた。


「...先輩...可愛いですか?」

「...」


言葉を紡ぎたいが...何も出ない。

可愛い...。

そう思っていると店員さんが「彼女さんにアピールしないといけません」と言いながら俺に注意してくる。

いや待て俺の彼女じゃ...。


「...先輩。どうですか?ぜ、是非、一言だけでも可愛いって言ってくれたら...」

「お前は何でも似合うな。...日頃もそうだけど...今も可愛いよ」

「...はい?」


七瀬は目をパチクリして絶句した。

ありのままの本音を言った。

ちょっと待て何を言ってんだ俺!!!!?

俺は口元を塞ぐ。

それから七瀬を見る。


「...そ、そうで、すか...」


思いっきりカーテンを閉められた。

それから俺は頭を抱える。

バカじゃないか俺。

何を言ってんだ俺...マジに。


店員さんはニヤニヤしながら俺達の光景を見ていた。

「うぶぁ...」という感じで、だ。

鼻血を出している人も居た気がするが?


何だろうか...。



着替え終わった七瀬が出て来る。

俺と目を合わせない。

そして洋服を返し、最後に髪留めも返すのか、と思ったら。

胸の中に引っ込めた。


「...これ、買っていきます」

「...!」


俺はまさかの言葉に七瀬を見る。

すると店員さん達は顔を見合わせて「7割引です」と言った。

は?、となる俺達。


「...これからの全ての成功を...おいの...い、祈ってます」

「は?」


まさかの事に衝撃を受けて俺達は顔を見合わせる。

その、7割引とかの値下げの札とかあったか?

そう思ったのだが...。


「...まあどっちにせよ俺が買うつもりだった」

「...はい?...せ、先輩!何を言っているんですか!?」

「俺がここまで付き合わせたんだ。...な?」

「...し、しかし...」

「良いから。...これ下さい」


そして俺はそのまま髪留めを買う。

2000円が何故か7割引。

衝撃的だった。

そんな値札無かったのに。

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