第5話 失った記憶
☆
クラスメイト達は私が女子だと発覚してからそれでも仲良く接してくれた。
「そうだったんだ」とか。
「へー!凄い!」とか言ってくれて...何も大きなズレは起こらなかった。
私はこのクラスは本当に良いクラスだと思う。
だってこうして私の事を分かち合ってくれた。
それが...嬉しかった。
「...はぁ...」
だけどとても憂鬱だった。
何故か分かっている。
それは...先輩。
八幡先輩のあの顔が気になっている。
緑川先輩の事も。
「どうしたの?」
「...あ。...菜穂...」
私に声をかけてくる女子が居た。
名前は飯島菜穂(いいじまなほ)だ。
私が男装をしていた頃から仲が良かった。
魔法が解けた様に私が男装を解いた時も...仲良くしてくれた。
寧ろ私を歓迎してくれた。
「実は」
全てを説明する。
すると菜穂は驚いた様な顔をしてから「そうなんだ。運命だね」と笑顔になる。
私は「あの日、助けてくれたのが凄く嬉しくて...シンデレラの様に魔法が解けたんです」と説明する。
菜穂は私のその言葉に「そうなんだね...」と優しく聞いてくれた。
「...私はどうしたら良いんでしょうか」
「そうなると先ずは身辺調査だね。...先輩がその女性になんで悩んでいるのか理由を調べた方が良い様な気がする」
「ですね。...私...頑張ってみます」
「私も協力するよ」
そして菜穂は笑みを浮かべる。
私はその言葉に「...菜穂...」となる。
菜穂は「友人だもんね」とニコッとした。
「...優しいですね」
「優しいとかじゃないよ。...当たり前の事をしているだけ。...だから気にしない」
それから菜穂は私の手を優しく握る。
私はその手を見てから笑みを浮かべた。
すると「じゃあそうとなると今から動かないと」と笑顔になった。
え?
「...ど、どこに?」
「先輩の教室に行かないと」
「え?...で、でも」
「良いから。行くよ」
そして私達はそのまま教室を抜ける。
それから先輩の居る教室に向かう。
すると誰かに鉢合わせた。
遠薙先輩だ。
「お?...あ。もしかして八幡に用事か?」
「はい。ちょっと用事がありまして」
「そっか。...ちょい待ってな」
遠薙先輩は教室を探した。
だが先輩は居なかった。
遠薙先輩が「すまん。飲み物買いに行っているかも」と苦笑する。
すると...。
「遠薙くん」
と声がして...その噂の女性が現れた。
緑川先輩だ。
菜穂は「...」となって目を丸くする。
「凄い美人...」
「え?...私?...私そんなに美人じゃないよ」
「い、いや...」
菜穂はヒソヒソと私に耳打ちしてくる。
「これマズくない?」的な感じで。
私は「...でしょう?」と耳打ちした。
それから2人に改めて向く菜穂。
「先生からの用事をお伝えに来まして」
「あ、そうなんだね。...多分自販機コーナーに居ると思うよ」
「ありがとうございます」
そして菜穂は2人に頭を下げる。
それから私達は下の階の自販機コーナーに向かう。
するとそこに...先輩が居た。
「ん?」
「初めまして。先輩。私、飯島菜穂っていいます」
「ああ...初めまして...あれ?七瀬。お前も居たのか」
「そ、そうですね」
「何の用事かな?」
「はい。単刀直入に。...緑川先輩とどういう関係ですか?」
単刀直入過ぎて吹き出した。
私は大慌てで「ま、待って下さい!?」となる。
だが時既に遅し。
あわあわしながら居ると先輩は「...ああ。それか。実は蓮とは腐れ縁...だった」と答えた。
「...腐れ縁...(だった)?」
「ああ。...俺は...アイツと腐れ縁、だった。だけど相手は覚えてはない。...何故かといえば彼女は母子家庭だと思うけど親父を失った衝撃で記憶が無い」
「それは...記憶がショックで一部分抜けたって事ですか?」
「大好きな親父さんだったらしい。原因はほぼそれだと思う。...その直後に親父の都合で引っ越したから。関係は全てが曖昧になってしまった」
「...そうだったんですね...」
私はその緑川先輩の過去話を聞きながら居ると先輩は「何か飲むか?」と聞く。
その言葉に私達は顔を見合わせて「あ。お構いなく」と言いながら柔和になった。
すると先輩は適当なお茶を買ってから私達に渡してくる。
「...俺は後悔している部分もある。...アイツに最後まで関われなかった事に。...だけど今は今。過去は過去。...だから...お互いに何も知らない感じで歩き出す。...それで良いんだ」
「...心の中で結論は纏まっているんですか?八幡先輩は...」
「結論は纏まってきたよ。積み上がった経験値はリセットされた。だからまあ関係性はリセットして...やり直す。それで良いと思う。...だけどまあ...対面では何かまだ緊張するけどね」
そう先輩は言いながら苦笑する。
それから私達はお茶を飲みながら複雑な顔で「そんな過去があったんですね」と言いながら前を見る。
先輩は「ああ」と返事をしながらココアを飲む。
「...俺達は死んだ訳じゃない。会おうと思えば会える。...だから問題無い」
そして笑みを浮かべてから私達の横でココアをまた飲む。
何だか心臓がキュッとなる。
忘れられた。
その事に心臓がキュッとなって...苦しい。
考えながら私は先輩を見る。
「...時間も時間だな。戻ろうか」
そうしてから立ち上がる先輩の...手を素早く私は握る。
それから見上げた。
何をしているんだ私?
「...あ...」
「...???...ど、どうした?」
「い、いや。何でもないです。...すいません...」
そして私は先輩から手を離す。
それから「...」となってから駆け出した。
恥ずかしくなってしまった。
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