第4話 戻らない時間


不思議な人だと思う。

八幡道兼という先輩が、だ。

私は体操着ばかり着ていたのだけど...それを辞めさせてくれたそんな先輩。


自信という...本当に自信を持たせてくれた。

大切な先輩だ。


私が体操着ばかり着ていたのは...いや。

思い出したくないからしまっておこう...。

そう思いながら私は自室に戻る。

それから私は制服を見る。

スカート、ブレザー、シャツ、リボン。

そんな服装を。


「...私に制服を着る楽しみを教えてくれた...先輩、か」


そう呟きながら私は明日。

また先輩に会うのが楽しみだった。

まさかこんな場所に住んでいるとは思わなかった。

これも運命かな。



翌日になって私は早めに日直もあって表に出る。

すると先輩と鉢合わせた。

私はぎこちない態度になりながらも「お、おはようございます」と挨拶をする。

先輩は私を見てから笑みを浮かべる。


「ああ。おはよう」

「...先輩ってこんな早くに...?」

「...そうだな。...早めに学校に行って...そして寝てる」

「...そ、そうなんですね」

「しかしお前。...やっぱり可愛いよな」


マジマジ顔を見つめられそう言われて私は赤面する。

それからぎこちない態度にまたなる。

そして「...先輩。セクハラです」と怒る。

すると先輩は驚きながら「あ、す、すまない」と言って顔を離した。

ビックリした。


「...じゃあせっかく同じ感じで出てきたし...一緒行くか」

「...あ、はい」


それから私は先輩と一緒に登校する。

身長差が...10センチぐらい違う先輩。

175センチはありそう。

高いなぁ、とか思ったりする。

すると先輩は「どうした?」と聞いてくる。

私は首を振った。


「...何でもないです。すいません」

「ん?そうか?」

「はい。えっと...とっても身長差があるなって思っただけです」

「...そういやお前は何センチあるんだ?」

「えっと。165センチです」

「...そうなんだな。...女子では高い方だな」

「そうですね...運動もしてないんですけど」

「はは。良いじゃないか。...身長が高い女子は憧れる。それに王子様と呼ばれていたじゃないか。お前は」


そう言いながら先輩は苦笑する。

私はその姿を見てから心臓を鳴らす。

何だろうこの感情。

そう思いながら居た。


「あ、そうだ。先輩」

「...ああ。どうしたんだ?」

「...今日、放課後に付き合ってくれませんか?」

「どこに?」

「スーパーです」

「...?」

「夕食の食材を買います」

「お前...マジに作りに来るの?」

「約束しましたから」


そして私はそこまで言ってからハッとした。

そうだ...この人。

確かお昼ご飯も...塩分の高いものを食べそうだ。

それだったら。

思いながら私は喉を鳴らした。


「あの。先輩」

「...ん?」

「私、先輩と一緒にお昼ご飯食べたいです」

「は?...は!!!!?」

「先輩はお昼ご飯もお粗末にしそうですから」

「い、いや。大丈夫だって」

「駄目です。全く信頼出来ないので」

「...」


私がそう言うと先輩は赤面した。

それから「分かったよ。しかしどうするんだ」と聞いてくる。

私は「今日は仕方がないのでお弁当を分けます」と笑顔になる。

先輩は「?」を浮かべる。


「今日ってどういう意味だ」

「明日から私がお弁当作ります」

「はぁ!!!!?」

「わた、私が作るのは...孤独死を防ぐ為です」

「そ、そこまでしなくても。俺達は付き合って...いる訳じゃない」

「...私がしたいからです」


言いながら私は胸を張る。

苦痛でも何でもない。

だから私は作る。


そう思いながら歩いて登校していると目の前にうろうろしている女子が居た。

見た感じ...長い栗毛色の髪の毛。

そして髪留めを前髪につけている...可愛い女の子。


「...?...何でしょう?」

「...分からんな」


そして私達はその女子に声をかける。

顔を上げた女子はかなりの美少女だった。

私達の服装の上下を見てから「あ、あの!」と慌てる。

それから「み、道に迷ってしまって」と困惑している...あ。


「...ああ。転校生か?」

「は、はい!私、緑川...緑川蓮(みどりかわれん)って言います!」

「...え...」


一瞬だけ...先輩が固まる。

それから美少女を訝しげに見る。

そして先輩は「...そうなんだな」と返事をした。


「一緒に登校するか」

「え?い、良いんですか?ありがとうございます」

「お邪魔とか言うなよ。そうは思ってないから」

「は、はい!」


何だろう今のギクシャク。

そう思いながら私は緑川先輩を見る。

そして同時に。

ズキッと何か胸が痛んだ。



緑川蓮。

2年生であった。

俺達と一緒に登校してから俺は教室に行く。

そしてチョップを受けた。


「何をするんだ貴様...」

「お前マジに良い加減にしろ。何であの美少女と仲が良いんだ」

「道に迷っていたから救った」

「そうかよ。そうしてこの世の女子を独占し。...俺を恋させないつもりだな?」

「遠薙...キモいぞ?」

「やかましい。貴様マジに良い加減にしろ」


そうして話していると同じクラスになった緑川が声をかけてきた。

また固まる俺。

というか何故か関係無い遠薙も凍結した様に固まる。

何でだよ。


「ありがとうございました。先程は」

「...あ、ああ。気にすんな。...大丈夫だ」

「そ、それで...ちょっと気になっていたんですけど」

「あ、ああ...?」

「私と...会った事あります?」


その言葉に俺は見開く。

それから「いや」と否定をする。

緑川は「...ですかね?」と首を傾げる。

俺はその姿を見ながら「気のせいだ」と笑みを浮かべた。

そして俺は立ち上がってから2人に言う。


「トイレ行ってくる」

「...?...ああ」


そして俺は「?」を浮かべている遠薙と緑川を見てからトイレに行く。

気のせい、か。

そんな事で逃げる気か俺は?

情けないもんだ、と思うが...。

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