第3話 道兼の過去

俺、八幡道兼は亡き親父に育てられた。

母親が癌で他界し俺は和かなマッスルな親父に鍛えられた。

だけどそんな親父はこんな事をよく言っていた。


「まあお前がニートになっても俺が養うけどな。あっはっは」


そんな言葉に甘えて従う訳にはいかない。

その様な親父だったから俺は正義深くなったんだろうけど。

そう思って俺は高校生になって1人暮らしを始め。

俺は親父を将来養い。

親孝行をするつもりで居た。


だがその親父は運動中の脳血管破裂の脳出血であっさり他界した。


初めは怒りしかなかった。

俺を残して死ぬ事はしないんじゃなかったのか親父、と。

逆ギレもした。

その影響で太ったりもした。

だけど...そんな俺を助けてくれた奴が居て今に至っている。


「はい。八幡先輩」

「...これは何だ?」

「焼きうどんです」

「...よく作れるな。こういうの」

「焼きうどん簡単ですよ?福岡の名物でもあります」

「...確かにそうだけど...簡単に作れるのかこれ?」


そう言いながら紙の皿に盛り付けられた焼きうどんを受け取る。

それから俺はちゃぶ台に乗せられたお茶。

そして焼きうどんを見る。

最後に...彼女。

七瀬光を見てみる。


「はい。じゃあいただきます」

「いただきます」


醤油。

だけど焦がし醤油だ。

俺は空いてもない腹が空腹を告げる感触を感じながら食べ始める。

鰹節、うどん、醤油、ちくわ...etc。

何だこれ...何だよこれ。


「美味しいですか?八幡せん...」


気が付けば俺の視界は...歪んでいた。

そうか俺は...母親にも会いたいが。

親父にも会いたかったんだな。

思いながら俺は食べる。

涙が出る。


「八幡先輩?!これ...不味かったですか!?」

「...違う。...すまない。...実はな。俺の死んだ親父が作っていた焼きうどん。味が似ていてな。...親父は九州地方出身で焦がし醤油ベースだったから」

「八幡先輩...」

「...すまない。...みっともない姿で」


するとガタンと立ち上がって俺の方にやって来た七瀬。

それから俺の横に腰掛ける。

俺は「!?」と思いながら七瀬を見る。


「これティッシュです」

「...ああ...すまん」

「いえいえ。辛い時は泣いて下さいね」

「...いや。男が泣くのはみっともない」

「そうは思いません」


強く言う七瀬。

それからニコッとしながら俺を見る。

どれだけ心が癒やされたか。

この焼きうどんで...俺は心底、心が癒やされた。

情けないな俺も。


「...七瀬」

「はい?」

「...たまにで良い。これ作ってくれるか。懐かしいんだ。...死んだ両親の事を思い出してな」

「はい。作ります」


そして笑顔になる七瀬。

俺はその顔を見ながら笑みを浮かべる。

それから立ち上がる七瀬。

そうしてから「ビックリしました。先輩が泣いたから」と言う。


「...ああ。すまないな」

「...良いなぁ」

「何がだ?」

「...いや。そう思える両親って」


七瀬は深刻な顔をする。

またこの顔だ。

何故こんな顔をするのか分からないが...。

そう思いながら俺は涙を拭いてから馳走になった紙皿を持つ。


「これはどうしたら良い?」

「あ。大丈夫です。私、片付けます」

「...そうか。なあ」

「...はい?」

「お礼がしたいんだが」

「...何もしてないですよ?アハハ。私はお礼を返しただけです」

「いや。何かしたい。...手伝いたい」


その言葉に七瀬は考え込む。

それからまた豆電球の様な閃きをしてから俺を見る。

ニヤッとしながら、だ。

そして「先輩の部屋に行きたいです」と笑顔になる。


「...は?...いや。楽しくないぞ?」

「私は楽しいと思います」

「...楽しいって楽しくないって。絶対に」

「何故ですか?嫌なんでしょうか?」

「...いや。嫌って訳じゃない...」

「は!まさかエッチなものが...置いてあるんですか?」

「違う」


それは断じて...違う...。

そう考えながら「あのな。あくまで男の部屋だ。...簡単に女子が踏み入って良い聖域じゃないし...危ない」と言う。

すると頬を思いっきり膨らませた。


「...私の部屋には問答無用で上がった癖に...ですね」

「...」

「...良いんですよ?八幡先輩が嫌なら。良いんですよ?」

「...分かったよ」


そして俺は額に手を添えながら玄関を開ける。

すると七瀬は「お邪魔します」と笑顔で入って来た。

それから電気を点ける俺。

しかし女子が俺の部屋に入る、か。

そんな七瀬はビックリしていた。


「何ですかこれ」

「...大量にあるがコンビニ弁当のゴミだな」

「...」

「...何だよ」

「こんな立派な...家財道具とかがあるのにお料理しないんですか?」

「しないな」

「...そうですか」


七瀬は考え込む。

それから手を叩く。

そして「八幡先輩。折半しましょう」とニコッとする。

俺は「は?」と眉を顰める。


「私、お料理作ります」

「...ああ」

「この場所を使わせて下さい。一緒にこれから食べましょう」

「...ああ...は?」

「毎日、お料理作りに来ます」

「通い妻じゃないか!」

「かよ...はぃい?!ち、違いますぅ!」


つーか何でだよ!そんな迷惑を...かける訳には。

そう思いながら俺は首を振る。

それから「その優しさだけ受け取っておくよ」と言う。

そして俺は七瀬を見るが...七瀬は怖い顔をしていた。


「こんなお粗末なお料理ばっかり食べている人は塩分糖分を摂って腎臓悪くして...腎不全。いや。...透析...いや。早死にしますよ」

「...まあそうだな」

「...八幡先輩に軽々しく死んでもらっては困ります。孤独死も困ります...そして突然死も、です。防がないと」

「あー。しかしお前が居るから大丈夫だろ。倒れても」

「駄目です。見守りも兼ねて...お食事作りに絶対に来ますから。お隣になった限り何としても」

「...」


期待の眼差しをする。

俺は盛大に溜息をまた吐いた。

そして額に手を添える。

それから俺は「...もう勝手にしてくれ...」と言った。

七瀬は満面の笑顔で「はい!」と答えた。

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