4.給食のいちごケーキ

 僕は義務教育課程のひよっこ、小学1年生である。今日の給食のデザートはいちごケーキだ。

 4限目のさんすうが終わると、皆示し合わせたように、いつもより俊敏に給食の準備に取り掛かる。給食係の山田、信濃川、山村、原は、まるで訓練されたエージェントのような動きで、戦闘服もとい給食着を見に付けた。時間にして、およそ20秒のうちに、給食台、机の配置、給食係の整列が完了した。

 僕は、先週で係を済ませていたので、6つの机をくっつけた給食グループの左端に陣取り、配膳を待つ。それまでは、隣の席のミナミちゃんといっしょに、おしゃべりと洒落込もう。


 いよいよ、今日のメニューが運ばれてきた。唐揚げ、お浸し、コッペパン、スパゲティだ。こんなにも豪華な給食は久しぶりである。

 しかも、これらの後に、デザートまでもが控えている。

係が、順番に配膳していく。まず唐揚げ、お浸し...ついに、待ちに待ち侘びた「いちごのショートケーキ」のお目見えである。

 信濃川が、僕のもとへケーキを運んできた。

「きゃあ!」

 何と、僕のケーキが地面に落ちてしまった。

「ご、ごめんなさい。私のをあげるからね...」


「いや、気にすることはない。信濃川こそ、服は汚れていないかね」


「あ、ありがとう」

 僕はほんの少しだけ、悲しかった。しかし、仕方あるまい。


「では、代わりといっては何だが、僕のスパゲティを爆盛りにしてもらおう」

 僕は、紳士である代わりに、妙に往生際が悪かった。

「もちろん!丁度いまは、風邪が流行ってて出席者が少ないの。もりもりにしてあげるね」

 すると、事態を知った先生がこちらへやって来た。

「ありゃりゃ、そしたら、先生のケーキをあげようね」

 すると、信濃川が反論した。

「え、でもそしたら先生のケーキがなくなっちゃう、彼には私のを...」

「なーに、先生はダイエット中なのさ」

 僕の腹は、主に爆盛りスパゲティと、いちごのケーキによって満たされた。今回は、朝ご飯を大量に食べていたため、僕の血中グルコース濃度は、あまり変動しなかった。

 代わりに、人の優しさの連鎖によって僕の血中しあわせ濃度が上がった。

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