早朝の出発
翌朝、まだ日の上らない時間に目を覚ました。まだ佐伯さんと円城寺殿はまだ眠っているようでだった。布団を片して背負子を背負うと音をたてないように部屋から出た。靴を履いて外に出ると空を見上げた。雲は多いが雨が降りはしないだろう。まあ山の天気は変わりやすいとよく言うものだから竜神の瞳を定期的にほおり投げて天気が崩れるのを早期に判断できれば死ぬようなことにはならないだろう。特に山登りの準備などしていないから、どこかで準備しておかなければならないだろう。とりあえず防寒と杖代わりの頑丈な枝は欲しい。そうなれば森の中を突き進もう。
正直、情報に関しては峡堂から入手した情報と大差なかったが、信ぴょう性はかなり増したので原住民に聞いた価値はあっただろう。
「おはようございます。カミノマさん」
「おや、佐伯さん。おはようございます」
寝ぼけ眼の佐伯さんが玄関まで歩いていていた。先ほど部屋から出るときに起こしてしまったのだろう。
「もう行かれるので?」
「ええ。泊めてもらいありがとうございました」
「道中気を付けて。クマやシカが出ますから」
北の大陸の動物は本土より大きいと聞いたことがある。襲われたら命はないだろう。本当に気を付けないとならない。対抗手段がないわけではないのだが、あまり使いたくない。珍品中の珍品でまた取りに行くことを考えると吐き気を催すからだ。
「出会わないことを願うよ」
「ああそうだ。これこれ、岩山を登るのなら持って行ってください」
佐伯さんが袋から取り出したのはなめし革でできたマントのようなものだった。羽織ってみるとずいぶんと温かい。
「いくら夏とは言っても高い山に登ると寒いですからね。それくらいはないと凍えて死んでしまう。差し上げますのでどうぞ使ってください」
「これはどうも。ありがたく頂戴します。では俺はこれを」
あまり人からものを貰う主義ではないので、俺は背負子から外国の商人から仕入れた食器を手渡した。
「こんな高価なものはもらえませんよ」
「世話になった礼です。それくらいでなければ釣り合わない」
「しかし、これは売り物でしょう?」
「いいのですよ。山登りするのだから少しは軽くしておいた方がいいし、何かの拍子に割れては売り物にもならなくなる。あなたが貰ってください」
ずいぶん長いこと渋ったが最終的には仕方のなさそうに受け取ってくれた。
「それではお達者で。円城寺殿にもよろしくお伝えください」
「わかりました。それでは」
空は明るくなってきていて、森の中に入っても視界は効くだろう。革製のマントを羽織って俺は一番近くに見える岩山目指して歩き出した。
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