極寒の岩山
木々をかき分けて進む。北に直進しているはずだから集落へと戻るのはそう難しいことではない。
まだ開拓を進めている最中というだけあって自然がありのまま残されており、キツネやリスといった野生動物に出会うことができる。しかし、あまり近づかれるのも恐ろしい。野生動物に嚙みつかれて死んだ人間を何人か知っている。いよいよ食うものに困ったとき以外は不用意に手を出さないのが良いだろう。
杖にするのに丁度いい木の枝を何本か見繕った。岩山を登るとなるとこれだけでは不安が残るがあまり贅沢は言えないだろう。現在目の前に見えている岩山はかなり高そうだ。壁のようにそそり立つ頂上部分は登れないかもしれないがそのすぐそばまでは何とか行けそうに見えた。岩山といっても草木は生えている。
上る前に竜神の瞳を投げてこの後の天気を見た。赤く光っているので外れていたとしても雨は降らないだろう。
「さてどう登ろうかね」
だんだんと険しくなっていくような山だ。中盤まではこの木の棒も使い物になるかもしれないがそこからは手を使ってよじ登るような形になりそうだ。
滑落したら命はない。無理せず死なないように登らなければ。こんなところで死んだらよくて白骨死体、最悪クマの腹の中だろうか。とりあえずろくな結末にはならにだろう。何より名家たる成芥子家との約束を破ることになる。それだけは避けねばならない。
「さて、死なない、生きて盆までに帰る。まったく本当に面倒なことを頼まれたもんだ」
あまり考えないようにしよう。変なことを考えていると思わぬところで大きな失敗を起こす。山に油断は禁物だ。なんせ昔油断して死にかけたことがある。詳しくは覚えていないが確か濡れた岩で足を滑らせて転がり落ちたんだったか。行商仲間に見つけてもらえなければまずかった。
岩がごつごつとしていて鋭くとがっている場所もある。歩く場所は考えていかないと足底部が音を上げる。杖を突いてゆっくりと登っていく。焦って早く登ろうとしてはいけない。高い山だと早く登ると頭が痛くなる。
岩の隙間から木や草が生えてきている。どこにナリゲシの花があるかわからないのでくまなく確認しながら進んでいく。花の形はケシというくらいだから丸く、色は濃い色合いなのだろうか。見つけるのが難しいというのだから本物の芥子のように草丈は高くないのだろう。そして群生もしていないというのだから困ったものだ。
いくつも山を登らなければならないかもしれないと思うと嫌になってくる。できれば早く見つかってほしいものだ。
登るにつれて植物が減っていく。低木と小さな草花がぽつぽつと咲いているだけだ。
「しかし寒いな。これだけの防寒では甘かったか」
長居していると凍えてしまいそうだ。体を冷やすと無駄に体力を消耗する。力尽きて山から下りれなくなるというのは避けなければならない。
「こりゃ数日に分けて探すしかないかな」
何とか山の半分は調べようと岩場を歩き回っていたが芥子らしき形の花は見当たらない。すでに手はかじかんでうまく杖も持てなくなってきていた。このままでは手が凍ると感じた。
「仕方ない。ここらで下りるか」
日は少し西に傾いている。どうやら正午はすでに過ぎたようだ。これはどちらにせよもう下山しなければ山の上で一夜過ごすことになる。下山の方が個人的には疲れるから少々憂鬱だ。手に息を吐き、少しでも動くようにした。
そういえば山のふもとに降りて野宿をするはいいが、クマが出たりいしないだろうか。少々怖いがそんなことは後で考えよう。
俺は下山を開始した。
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