山奥の情報屋
東の都から北に向かう道中、茨の国のとある山奥へと向かった。
杉の大木が乱立する山の中は夏にしては涼しいが、道のりはひどく険しいものだ。整備された道などなく、木の根や岩で酷く足場の悪い場所を上へ上へと登って行くしかないのだ。
何故あの情報屋はこんな所に住んでいるのか未だに疑問であるが彼の持つ情報は信頼性が高い。それ故にこの山道を突き進んででも会いに行く者が後をたたないらしい。
杉の大木が少しずつ数を減らしていき、次第にひらけた平地へと出る。そこには丸太を組み上げて建てられた家が一軒、薪などが収納されている小屋が一軒建っている。
「ようやく着いた……」
家の戸には木札が掛かっており、在宅中と書かれている。戸を開けて中に入ると痩せ細った男がタバコをふかして椅子に座っていた。
「よう、毎度毎度よく来るなぁカミノマ」
男はタバコを陶器の器に置いてこちらに向かって手を挙げた。
「いい加減家を麓の集落に移せ」
「そりゃ無理な相談だ。客が来すぎる」
「いいことだろうが」
「いんや良くないね。情報仕入れに行く時間が無くなる」
「いつ来てもこれだな峡堂」
「お前がいつも同じ事を言うからいけない。……それで?今日は何の情報が欲しいんだ?生憎だが、虚空の器について新しい情報はないぞ」
「構わんさ。今日はそのことではない」
「はぁん。となりゃ、成芥子のお嬢様のわがままか」
「その通り。今回はナリゲシの花という幻の花を見たいと仰せだ」
「……また無理な事を言うなぁ」
「何か知ってるなら教えてくれ」
「わかった。なら、タバコ3箱で話してやる」
「3箱は多いだろう。2箱にしろ」
「おいおい、3箱でもまけてる方だ。本当なら3倍は払ってもらう所なんだぜ?」
「…………わかった」
俺は仕方なく背負子からタバコを取り出すと峡堂に投げ渡した。ばらばらに飛んだ三つのタバコを曲芸の如く不可思議な動きで全て掴むと峡堂は情報を語り出した。
「ナリゲシの花は北の大陸の最北の岩山に咲くそうだぞ。しかし、見られる可能性はかなり低い。地元の住人でも見たことがあると言う者が殆どいない。てことでな、情報はこれで全てだ」
とりあえず北に向かって岩山に登ればいいのはわかった。だが、肝心な花の見た目がわかっていない。情報が無いよりマシだが、こうなれば現地でさらなる情報をかき集めるほかないだろう。
「それじゃあついでに聞くが、北に向かって出ている船はあるのか?」
「青森にあるぜ。と言っても貨物帆船だがな。船長にでも頼み込めば乗せていってもらえるんじゃないか?」
「成る程、わかった。行ってみよう」
「気を付けて行くことだな。北の大地は広いぞ」
「覚悟はしているさ」
家から出て地図を広げた。まず向かうべきは青森だ。汽車に乗って向かえば2日程度で港に着くであろう。
この山道を降るのは気が滅入るが、仕方がない。
「さて、降りますかね」
顔をはたいて気合いを入れ、来た道を降り行く。
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