1-14・魔法抜きの学園ものといえばラブコメかミステリー

 使い魔放題サービスによって、離れの部室がゆるく防護され、またスギ花粉対策もうまいこといって、防護膜にへばりついたスギ花粉は、自動的に魔法扇子によってマジックビン、じゃなくてただのインスタントコーヒーの空きビンの中にさらさらと蓄積されている。


「はじめのうちは、すぐにいっぱいになっちゃうので、マメに移し替えないといけないかなー」とミドリは言い、100均ショップでけっこう大きめのアルミ缶をミナセに買いにいかせた。


「これ、溜めといてなんになるのよ?」とおれは聞いた。


「んー、……伏線?」と、ミドリは言い、いやいやそれは冗談やね、どこか近くに、そういうの埋められそうな穴とかないの、と聞いた。


「そんな穴に捨てたら、ある日突然、空の上から大量に降って来る気がするのでおすすめできない」と、ミロクは言い、おれもそう思った。


「スギ花粉でお菓子を焼くのはどうでしょう? わたし、お菓子作りには自信があります!」と、狂気の姫であるクルミは言った。


 ラスクも知らなかったくせに、たいした自信である。


「なに作るのよ」


「クッキーとか……天ぷら? 粉もの系なら小麦粉に混ぜれば、けっこうスギっぽい香りがついていいんじゃないかと思うんですけど」


 日本人の半分ぐらいは食べられそうにないものである。


「粉塵爆発とかに使ってみたい」と、武官のワタルは言った。


「あと、魔物に追われたときの目潰しとか」


「ここは日常的に、敵とか魔物とかいうものがいる世界じゃないのよ。ヒトの話聞いてる? 高校生活といえば、えーと」


「学園ラブコメですね!」


「自信あるの、クルミ?」と、おれは聞いた。


「なんでも自信があると思ってもらっては困ります」


 そこでそんなに、自信ないことで胸を張られても困るんだけどな。


「そうやね、まずはテンプレのキャラ設定からいかないと

あかんと思うんよ」と、ミドリは腕を下乳のあたりで組みながら言った。。


「アキラ、あんたには異性の幼馴染とかいないのん?」


 おれはしぶしぶ、ミロクのほうを指差し、ミロクは堂々と自分のほうを自分で指さした。


「こういう裏設定って、あまり話したくはないんだよなー、小学校とか幼稚園のとき、こんなことがあった、みたいな」


「ちなみに、どっちが泣き虫だったんですか」と、クルミは、はあはあしながら聞いた。こういうテンプレ設定に弱いタイプのヒトもしくは異世界人もいるらしい。


「それはそのうち語ることにしよう。子供のころの記憶はたいてい偽装記憶だからな」


「わかった。それじゃあ、両親が再婚して一緒に暮らすことになった同級生は?」


 ミドリの質問に対して、ミナセは素早くおれに目を向けると片手で指を指した。おれは床に伏せ、一回転しながらミナセをファニングで3度撃った、ふりをした。


 ミナセは、信じられない、という顔をして、胸に手を当て、床にゆっくりと倒れた。


「というわけで、おれとミナセは、両親の再婚で同じ家に住んでいる。なんでそんなことまで、設定として語らなきゃいけないの」


「ちなみにBL設定ということもありません」と、ミナセは補足した。


 ミナセがどんな子を好きなのかは不明だし、今現在つきあってる子がいるかも不明だけど、少なくともそれはおれでないことは確かである。


 あ、不明って言っちゃいけないね。実は知ってる。ここでは語らない、ってだけのことにしておこう。


「そうなると、あとは学園の日常的謎解きかな。オカルト・怪奇系もあるけど」


「学園ミステリー、いいですね!」


「そういうのに自信があるのは、自分だけど、と、念のために言っておこう」と、ミロクは挑戦的に言った。

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