1-8・ホワイトボードを有効活用する
おれは3分の2は残っているホワイトボードの余白に、まずこう書いた。
×エタ(り)部
「まず、ざっくりとみんなの叡智を聞こう」どの程度まで役に立つかはさっぱり不明だけどな、と、おれは心の中で思いながら聞いた。
「それでは言いかたを改めまして、未完成創作物支援、ですか」と、ミドリは眼鏡の縁をくい、と持ち上げて言った。
「まあまあそうそうそういう言いかたもあるよね」
「ネタとしてよくあるあやかし高校ですね」
「まあそうだけどね」そうだけど、よくあるかは不明である。
「ここでちょっと異世界の魔力とか異能力とか使えば、活動実績は簡単かな」
新入生予定の3人は、委員長タイプのミドリを筆頭に、どのキャラも真面目である。その方向が正しいかどうかは別にして、この部室を居心地のいいものにしていこうという点では、共通している
「はい」と、優等生というよりは姫様タイプのクルミは、崖っぷちアイドルグループのメンバーが、100名定員のミニホールを一週間で一杯にするための企画を考えついたときのように、元気よく手を上げた。
「異世界魔法は遅れてる茶道部、というのはどうでしょう」
まんまやんけ。しかしそこで全否定をしてしまうのは、クルミではなくオリジナルの作者に申し訳ない。
おれは、なんでそんなの知ってるんだよ、と思いながらホワイトボードに書いていった。
△異世界
△魔法
×遅れてる
△迷宮
×最深部
×出会いを求める
×件について
×ですが何か
×オタクに優しい
×もう遅い
△ありのままの
△負けヒロイン
△間違ってる
なお、最後のは、クルミが「い」を、ふふん、という顔で書き込み、ミナセが最後に「。」を書き込んだ。
△間違っている。
「え、そうなの?」
「正確には奉仕部だけどな」と、部長のミロクは付け加えた。
「なんか微妙に古いんだよなー、あんた、帝国の叡智、さす姫じゃないのかよ。5年ぐらい前から更新されてないネット小説のヒロインかよ」と、おれは言ったので、クルミは端正な顔に赤みを加えて、むっむっむっ、という表情をした。
だったらあなたが考えれば、と言い返さないところが立派である。
おれが考えたほうがもっとろくでもないことになる、ということは知っているようだ。
×ほっこり
×じんわり
「どうしてそのふたつが駄目なんですか!」と、クルミは抗議した。
「いやなんか……悪くてさ」
「どこに?」
「運営に」
「はい」と、武将タイプのワタルが手をあげた。
「マルキ・ド・茶道部」
わはは、と笑いながらミドリは右手で机の上のドイリー(レース編みの、飲み物を置くための敷物)を叩き、ワタルはそれに合わせて左手で自分のドイリーを叩いた。
リズムは、ミドリがひとつ叩く間に、ワタルがふたつ。
上方落語の拍子木と小拍子のノリである。
未完結の異世界人が触れるものは、まだそれだけなのだった。
クルミはすこし意味がわからなかったらしく、間をおいて、あっそうか、という感じで右手をグー、左手をパーにしてミット打ちをした。
おれはいらいらして、ホワイトボードの「活動実績」という部分を筆記用具で指し示した。
しかしここで、ふと当然ながら疑問に思ったことがあった。
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