2話 妹の様子がおかしいような……
「よしっ、今週も今日で終わりだ。頑張るぞ!」
明日から二連休という心理的ブーストにより、登校を前に、僕のテンションはいつもより少しだけ高かった。
僕の学校では置き勉が禁止。
教科書類で限りなく重くなったリュックサックを背負い、階段を降り、玄関に向かった。
するとリビングのドアが開いて、中から出てきた
「あっ、お兄さま。おはようございます。そして行ってらっしゃいませ」
「うん、おはよう。そして行ってきます」
変な挨拶だ。
しっかり者の彩葉は、いつもなら僕と同じかそれより少し早いぐらいに朝の
ようやく朝食をとり終え次に洗面所か2階にでも向かうところのようだ。
「どうしたの。彩葉にしては遅いね」
「はい……。眠すぎてなかなか起きれなくて」
ふーん。と言いかけたところで僕は思い出す。
「ああ、そっか。昨日、歌番で忙しかったもんね」
「はい、帰ってきたらもう遅くて、でも学校の宿題もやらなきゃで、寝たのは深夜でした」
「それは大変だったね。お疲れ様」
「ありがとうございます。普通の番組の収録だったら土日のお昼とかの場合もあるんで影響は少ないんですが……昨日は夜間の生放送だったので」
「そういえば初めてなんじゃない? リアルタイムでテレビに出るの」
「そうなんです! なにげに昨日が記念すべき初めての生出演でした」
自分の所属するグループの歴史がまた新たに刻まれる。それはきっと嬉しいに違いない。彩葉の様子からそれが伝わってくる。
その時、不意に彩葉が両腕を後ろに組んだ。
そして体を触れあわせるようにグッと近寄ってくる。
身長が170センチちょっとの僕。
150センチ後半の彩葉。
ちょうど僕の鼻のあたりに彩葉の頭部がくる。
日頃から彩葉は髪の手入れをかかさなかった。
シャンプー、トリートメント、コンディショナー、ヘアクリーム。様々なケア用品の織りなす優しく甘い香りが、髪からふわっと広がり、僕の鼻の奥へ消えていった。
(うっ――)
クラっときた。
前に一度、彩葉が、お手製の香り見本のようなものを10個近く持って、僕の部屋にやってきたことがある。
この中でいちばん好きな香りを選んでほしいです。
僕はワケも分からないまま、香りを順番に確かめていき、その中から1つを指さした。
それからしばらくして、彩葉の髪から、その時に示したものと同じ香りが漂ってくることに気づいた。
ただいい匂いがするだけなら心地よい気分になるだけで終わるかもしれない。
だけれど、彩葉の髪の香りは、『僕の心に刺さる』いい匂いだった。好みに合わせにきているのだ。
心臓がドキドキするのを
僕の目が大きくなる。
(なななななななななんか今、彩葉の口からシモネタ的な響きを感じたんだが!? まさか、嘘だよな!?)
落ち着け、僕。
彩葉だぞ、彩葉。
重度のブラコン気質で、常日頃から僕とイチャイチャするチャンスをうかがう闇深さを持ち合わせているものの、それでもエロ方面に走ることはないはずだ。
彩葉はこれまで優等生として育ってきた。
僕が長い対策期間を
入学後は勉強や習い事に
根の真面目な彩葉は、そもそもそういった方面の知識を持っていないだろう。
常日頃から性欲と隣り合わせでロクでもないネタを自分からバンバン仕入れている男子とは訳がちがうのだ。
ならばこれは僕の早とちり、勘違いの類だ。
僕は彩葉から少し距離を取った。
「それでお兄さまは見てくれましたか? アイドルモードの私」
「うん、まぁね。ちょうどテレビに映ってたから」
「ほう。それじゃあちゃんと『見てるうううううう』って叫んでくれましたか?」彩葉が僕の顔を覗き込む。
「叫ぶかっ! 誰が叫ぶかっ! ……なぁ。アレもうやめてくれないかな。ふつうに恥ずかしいから」
「ふふふ」
ニコニコ……いや、ニヤニヤする彩葉に僕は
「もう行くからな。学校」
僕はシューズを履くと外に出た。
すると彩葉もパジャマ姿でゆっくりついてくる。
1、2メートルほど一緒に歩いたところで立ち止まり、それからは僕の姿が見えなくなるまで右手を小さく振っていた。
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