2 ―承―
カフカみたいに小説を書きたいっていうことは、ずっと思っているのだけど、私小説みたいなものしか書けないでいる。カフカみたいに書くっていうのは、カフカが書いたもののように書くっていうことじゃなくって、カフカが書いたように書くっていうことなんだけど、この違いってぼくにははっきり違ってるって思うことなのに、人に言っても案外分かってもらえなかったりする。
カフカが書いたもののように書いたら、カフカが書いたものに似た小説を書くことになると思うんだけど、カフカが書いたように書いたら、カフカが書いたものに似た小説になるはずがないって、ぼくは思ってる。なぜかっていうと、カフカとぼくはぜんぜん違うんだから。
高校の文芸部で――つまり最近の話――、先輩に今言ったみたいな話をしたら、きょとんとされて、あんまり分かってもらえなかったみたいだった。でも、今言ったみたいな話を、当時は多分もっと拙い言い方で言ったときに、ぼくが何を言おうとしているかすぐに分かってくれたのが、中埜アオ君だった。
そもそもぼくがカフカを知ったのは、彼に教えてもらったからだ。
中二の五月、ゴールデンウィークが明けてしばらくした頃のこと、ぼくはその頃はたいていミステリー小説なんかを読んでいたのだけれど、一度『中原中也全詩集』を持って行って読んでいたことがあった。そのときに初めて、中埜君がぼくが読んでいる本のことで話しかけてきた。
中埜君は珍しく――はじめて!――後ろの席のぼくの方に振り向いて、おもむろに「中原中也好き?」と聞いてきた。ぼくは父の書庫にあったその本をその日たまたま手に取ったというだけで、中原中也という詩人のことをまだ何も知らなかったので、その時には好きも嫌いも無かったんだけど、急に聞かれて驚いて、あんまり考えなしに「うん、好き」と答えた。そうすると中埜君は、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。ように、ぼくには見えた。
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