変身
西添イチゴ
1 ―起―
人の見た目はその人の本質を覆い隠すものなんじゃないだろうか。
ぼくは友達が少ないので、あまり多くの人の内面をよく知っていたりしないのだけど、いくらか親しくなった人が、第一印象通りの人だったということは、いままで一度もない。
中学二年の一年間同じクラスだった中埜アオ君は、最初の一ヶ月くらいは、前の席の人だという以上には何の印象もなかった。中埜君と席が前後だったのは出席番号順で並んでいたからだけど、さらに背の順に並んでも前後だったので、新学期からわりとずっとお互い近くに居たのに、しばらくは取り立てて仲良くなったりもしなかった。
ぼくが教室でしばしば本を読んでいるようになったのは、この頃からのことで、友達ができないものだから、一人では休み時間とか手持ち無沙汰で、それで仕方なく家から本を持って行って、教室ではもっぱら本を読んでいたのだった。
ぼくの家にはむやみやたらと本がある。
それらの本はぼくの本というわけではなくて、父の本なのだけれど。ぼくの父は本好きで、書斎の他に書庫も持っている。書斎は整理されていて、それほど大量の本があるというわけでもないのだけれど、書庫の方にはいったいどのくらいの本があるのかよく分からない。書庫と言っても、図書館みたいにすべての本が棚にちゃんと並んでいるわけではなくて、大半が段ボール箱に入れて積み上げてあったりするので、何冊くらい本があるのか数えようもない。
書斎の本はあまり勝手に持ち出したりできないけれど、書庫の本は勝手に持ち出して読んでいても何も言われない。読んで気に入った本は、ぼくの部屋の本棚に並べておいても、それもべつに咎められたりしない。それでぼくは、中二の春頃から、父の書庫から本を持ち出して勝手に読むようになった。
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