第3話 嵐の前の一息

訓練が始まって数日、アレンたちCクラスの生徒たちは早朝から夕方まで詰め込まれる厳しいスケジュールに疲労困憊していた。そんな中、今日は初めて午後が自由時間となり、生徒たちは寮の共有スペースに集まっていた。



「はぁ~、やっと自由だ……。」

ユアン・グレイがソファに倒れ込むように座り込む。


「これが自由ってやつか……でも、筋肉痛が酷すぎて動けない。」

アレンも同じく座り込み、肩を揉みながら呻いた。


「みんな、訓練の度にそんなに大袈裟な反応しなくても……。」

リディア・ウェブが冷静な口調で本を閉じながら話し出した。

彼女は記憶力が優れており、教官の指導をすぐに吸収できる優等生タイプだ。


「いやいや、リディアは体力オバケかなんかか?俺たち一般人の悲鳴がわからないのかよ!」

ユアンが笑いながら突っ込んだ。


「訓練に文句を言っているうちは二流よ。」


「文句ぐらいいいじゃぁん!」

ユアンのオーバーなリアクションに、クラスメイトたちは笑い出した。



「そうだ、せっかくだからゲームでもしないか?」

ナイラ・ヴォーンが思いついたように提案した。


「ゲーム?」

アレンが首をかしげる。


「ほら、これ!」

ナイラは近くに置いてあった彼女の飲みかけのペットボトルを手に取った。


「これを机の上に置いて、アンブレラで電撃を当てて中の水を蒸発させる勝負よ!」


その提案に、一瞬クラスが静まり返る。


「いやいや、そんなの危険すぎるだろ!」

ユアンが即座にツッコむ。


「大丈夫よ。みんなアンブレラの扱い方は学んでるでしょ?ちょっとくらい遊び感覚でやってみてもいいじゃない。」

ナイラは楽しそうに笑いながら、すでにペットボトルを机の上に設置し準備している。


「おいおい、ナイラ。これで机が焦げたらどうすんだ?」

ユアンが不安そうに尋ねる。


「その時は、負けた人が責任取って買い直せばいいんじゃない?」

ナイラが軽く言い放つと、ユアンは「マジか!」と叫んで頭を抱えた。


結局、ゲームをやってみることになり、最初の挑戦者はエリナ・ハートだった。


「いくわよ!」

エリナはアンブレラを構え、先端をペットボトルに向けた。そして軽くスイッチを押すと、パチパチと小さな電撃が発生し、ペットボトルに向かって放たれた。


「わぁっ!」

小さな爆発音と共に、ペットボトルが破裂寸前で揺れたが、水はほとんど蒸発していなかった。


「うーん、失敗かぁ……。」

エリナは悔しそうに首を振った。



次の挑戦者はアレンだった。


「さて、俺の番か……。」

アレンは緊張しながらアンブレラを構える。


「アレン、焦らないでね!」

レナが励ますと、アレンは軽く頷いてスイッチを押した。


電撃がピリピリと走り、ペットボトルに命中。すると、中の水が一瞬で白い蒸気を放ち、ほとんどが蒸発した。


「おおっ、すげぇ!」

ユアンが拍手し、他のクラスメイトも歓声を上げた。


「なんだ、アレンもやるときはやるじゃないか。」

ジェイスが静かに褒めた。



その後も次々と挑戦者が現れ、ナイラやリディア、ユアンなどが順番に挑戦した。

しかし、ペットボトルの水を完全に蒸発させることができたのはアレンとリディアだけだった。


こうしてCクラスの自由時間は終わりを迎えた。賑やかでくだらない話ばかりだったが、その時間が彼らを少しずつ一つにしていく絆を育んでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る