第14話

 僕は僕のやるべきことが分かっていた。僕は死んでしまった亜子ちゃんの魂を月の裏側まで運ばなくちゃいけなかった。死者の魂の還る場所へ。僕は亜子ちゃんの体を抱き上げた。けれども亜子ちゃんの体は、力をほとんど失った僕にはもう重くて、何度持ち上げようとしても無理だった。あるいはやっぱり僕はまだ亜子ちゃんと一緒にここにいたかったのかもしれないけれど。

「モコ、」

うなだれるしかない僕の耳に、不意に亜子ちゃんの声が聞こえた。

「亜子ちゃん、」

僕はハッとして俯いていた顔を上げ、亜子ちゃんの名前を呼んだ。亜子ちゃんのすっかり力を失った体は、僕の両腕の中にあると分かっていたけれど、僕は辺りをきょろきょろ見回して、亜子ちゃんの不細工な笑顔を探した。

「モコ、愛してるよ」

再びはっきりと、今度はさっきよりももっとすぐ近くで亜子ちゃんの声が聞こえた。亜子ちゃんは僕にそう言って笑った。どこにも姿が見えなくても僕にはそれがはっきりと分かった。

「僕も、愛してるよ、亜子ちゃん」

僕が言うと亜子ちゃんは、とてもとても嬉しそうに、いつものとびきり可愛い笑顔を見せた。

僕の亜子ちゃん。

不細工でのろまでドジで不器用で怖がりで泣き虫の亜子ちゃん。

僕の亜子ちゃん。

僕たちずっと一緒だよ。

亜子ちゃん、愛してるよ。

ずっとずっと愛してる。

亜子ちゃん。

僕の天使。

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僕の天使 いちご @ichigoligoli

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