NO3:VRカジノのクイーンとウサギ③

— ザッ……と並べたカード


— クイーンの遺産


— ピチピチのボディスーツとフルフェイスの女


— チップとカクテル



うーん。これぞカジノ!本物のカジノで勝負するの実は初めてじゃねぇ?

本物のディーラーさんがカードを切る紙擦れの音。

扇のようにフワッとカードを煽ると柔らかく頬を撫でるアルコール混じりの空気に勝負の香りが漂う。

トンっと拍子をつけるとBGMに混じってライブのクラップのように心臓が沸き上がる。


これだよこれ!VRじゃ味わえない高揚感。


ポーカー?

ブラックジャック?


「お客様が勝ったらクイーンのヒントにお答えしましょう。」


「MIMIちゃんが勝ったら?」


「うーんそうですね。新しい信託のプランに入ってもらえますか?ふふふ、一番高いので!」


クイーンの秘密を賭ける勝負はなんだ。くぅぅぅ!!いいねぇ!


—————— ❤︎ ♣︎ ♦︎ ♠︎ ——————


「ポーカーにしましょう。」


MIMIちゃんの慣れぬ手つきでシャッフルするカードは、最新の照明とパネルで装飾された重厚な木製のカウンターに並べられ、怪しいサイバーなライティングが黒いVRボディスーツを艶かしく照らし出す。


……——なんか良いな。


バニーちゃんがお盆に乗せたカクテルを勧められるままに受け取りぐびっと一気に飲み干す。今時、リアル店舗に来るのかなと思ったけど何となく実店舗の良さがわかったよ。


真剣勝負のMIMIちゃんはカードを5枚構える。


あーかわいいなぁ。実物見たことねぇけど、足とか細くてぜってぇかわいいじゃん。

フルフェイスがから表情がわからないけどマジマジと観察。そう観察!


……ん?

…………んん??


俺もゴーグルをしているので悟れないはずだけれども、薄暗い店内の落ち着いた照明がテーブルの下に灯る。


マティーニに口をつけ、置いて。

また口をつけ、グラスをずらして置いて……


を、繰り返しなるべく照明の下に体をジリジリと動かす。


「……もしかして照明が暗いですか?」

「ああ。うん。ゴーグル越しだと少し手元が見えづらいだけで気にしないで。」


ふぅ……。わざとらしさ満点だが何とか自然に照明の真下に構えられたぁ。ゴーグルに照明が当たって反射する位置。店内の窓ガラスを遠目に見ながらポジションを確認する。


よぉ〜し!気付かれてない。ゴーグルのおかげで視線がバレないのは好都合だ。


かわいい、かわいいMIMIちゃん。真剣にカードを見つめる姿が健気で愛おしい。

が、この勝負だけは負けられない。彼女が真剣にカードを見つめれば見つめるほど俺には君の手札がわかってしまう。恋の力かな?


……その、フルフェイスのVRマスクに手札が反射して丸見えだよお嬢さん。


俺は慌てて自分のゴーグルに手札が映らないように照明の真下に移動したが、MIMIちゃんはまだ気づかない。ふむ。この俺にギャンブルの才能はないけどコレは負ける気がしない!!めっちゃ自信満々だわ!!


「外……何かありましたか?」


チラチラと窓ガラスでポジションを確認する様子が不審満点。

天井の高いラウンジの一面窓ガラスから望むオーシャンビューに満点の夕焼け。徐々に星々を散らした夕闇が降りてくる様子に「ふふ。綺麗ですね。」とフルフェイスを夕陽に染めてながら見惚れる君。


うーん。勝負が終わったらマスクをひっぺがしたい。

ユラユラと夕陽がマスクを染めながら、彼女のカードはフルハウスまであと一枚。


俺の手持ちはツーペア。あと一巡でカードが揃わなければ俺の勝ち。


「よっしゃツーペアで勝負だぁ!!!」


アニメキャラのごとくカッコつけてテーブルに叩き出したのはツーペア。

……ダセェ。


分かってる。ここはロイヤルストレートフラッシュって俺も言いたかった。

でも勝てばいいんだ。一発勝負で勝てばっ!!


—————— ❤︎ ♣︎ ♦︎ ♠︎ ——————


フルフェイスのマスクは静かに頷いた。カードを卓に並べてディーラーがカードを片付けチップを配布する。


「ゴーグルにチップが表示されるから、コインがなくてもかわらねぇけどな。」


とはいえ、手元に3枚ほどコインが渡されるとちょっと嬉しい。


「……MIMIちゃんもなんか飲む?」


MIMIちゃんはフルフェイスを外すのが嫌なのかフルフル首を振ってるけど、いくら冷房が効いてるとはいえ夏場にずっとボディスーツじゃ水分不足にならないか?

タブレットのメニューにはフルーツが盛り盛りの南国メニューが満載だ。


「女の子ならこーゆーの好きなんじゃないの?奢るよ。」


「あ……でも、一応仕事中ですし。」


「そっか。アルハラになるのかな?そのマスクも仕事中外せないの?」


営業?になるのか?妙な仕事だけれどまぁカジノが絡むなら顔バレって厄介かもな。

金が絡む上、SNSやストーカーとかを考えると何となくアバターを使う意味がわかった。


「女性は大変っすよね。そんな格好で営業じゃー変な野郎も寄ってきそうだし。ああ!ごめん!!セクハラになるかな?」


「すみません。わたし……じゃない。ボク男なんですっ!!だからセクハラでも何でもなくって。」


「ええ?でも、え?胸は???」


男?!!男の娘ってやつ?胸もお尻もまあるくプニっとしている。ボディスーツがプルプル揺れている。思わずゴーグルを外してマジマジと見ちまうが女の子にしか見えない。


「最新のVRスーツなんです。外側も磁性スライムが膨らんで体型をパットでコントロールできるんですよ。」


「えええええ?」


「センサーで胸の揺れとか……こんな感じで……」


ぷるん……ぷるんっ

はぁ?実演するMIMIちゃんこと……えっとお前は誰だ?まぁいい。MIMIくんの小学校のダンスの授業の振り付けが懐かしい。俺もそのダンス習ったわー……じゃぁなくって!


「で、結局クイーンの遺産って何なの?!」


予想外の展開ですっかり目的を見失っていた。やっべー賭けはMIMIちゃんの秘密❤︎じゃなかった。気を取り直してクイーンの遺産とやらに突っ込んでみる。


「契約では”クイーンのゲーム”としかお客様には言えないんですよ。ただ、このチケットがあれば手持ちのコインを倍にできるチャンスが得られます。何倍になるかはクイーン次第です。」


「ふぅん。国営カジノのイベントならまぁそんなもんか。でもなんか変なんだよな。」


コウくんが面倒臭いって言っていたのが気になるな。クイーンを知っているコウくんなら知り合いかき集めてコインを集めて倍にして手数料取るとかもできそうだけどそれはしていない。


「クイーンは実在するの?銀行のキャラクターがいるの?」


クイーンに直接会ってる様子のコウくんは年中「金がない無い。」と嘆いてるのを考えるとコインが倍になってる様子はないだろうなぁ。


「にしてもだ、銀行員がわざわざ女装して案内するのが意味がわからん!」


「ボクは正確には銀行員じゃないんですよ。JVRC(日本VRカジノ連盟)から出向している職員です。」


「あー似たようなもんだろ。それも意味わかんねぇよ。」


JVRC……ニュースでたまに聞くくらいで縁がねぇ。国営とは言っても資本と運営は独立した団体が国の管理のもと動いている。じゃなきゃ企業コラボなんかを組んで金を稼ぐのがやりずらいらしい。


「それとこれとに何の関係がある?」


「投資もギャンブル、みたいなものなんですよ。」


それは分からないでもない。現にルーレット信託で一発当てた俺がいる。


「クイーンはある資本家がカジノに出資しているんです。その資本家を見つけてクイーンの資本を投資という名の相続を受けるテストを受けてもらいます。」


「へぇ。DDマンさんあたりがソレってことか。で、銀行側に出向してるお目付役が担当さんってことね。お疲れ様です。」


女装するまでは意味わかねんねぇけどめちゃくちゃ金持ちのバァさんの運用サポートってことね。カジノのV.I.P.を焚き付けてご苦労なこった。ため息と同時にソファに転がってカクテルを飲み干す。


「クイーンは金持ちが増えてカジノが盛り上がればいいのか?」


遺産という名の泡銭が手に入ったらカジノで一儲け。儲けたらそれを元手に更に増やす。カジノ中毒者の定番だ。泡銭で商売をして成功するDDマンさんみたいなタイプは少ない。


「それはJVRCと銀行側の都合ですね。」


「っは!そんなこと言っていいのかよ!!所属してんだろ?」


「事実ですから。。運営会社ならなんの間違えでもないです。」


そらそーだ。プロジェクトが盛り上がるならそれが一番だ。

だけど俺はただのサラリーマンに過ぎない。DDマンさんみたいに何か作ったりアイディアがあるわけでもない。


「だから、俺はのか。」


投資する意味がない。ただの偶然小金をゲットしたに過ぎない。


「厳密にいうと少し違います。受ける権利は大いにあります。が、あなた自身が必要としていないように見えるんです。」


「あーコウくんと一緒かもね。面倒なら、今のままでも十分だし。」


「コウさんの場合は少し違いますね。」


え?意外だけどどういうことだ?ソファから身を乗り出す。起き上がった視界にはとっぷり暮れた窓辺から夜景が見える。夜景にボディスーツが溶け込むように見える。


「コウさんは一定の水準までヒットするまでその投資金額を待ってもらってるんですよ。」


面倒って理由は、レッスンや目標設定が面倒って意味らしいけどブーブー言いながらなんだかんだ夢に向かって頑張っているらしい。


「へぇ意外と真面目にやってんじゃん。でも、俺はそんな目標とかねぇからなぁ。」


「だからボクが付いたんです。」


はい?チュートリアル用のアバターでVIPの案内して終わりじゃねーの?

カクテルをぐいっと……ああ!グラスが空だ。くっそ。意味がわからねぇ。


「お金をどういった”目的”に使いたいか。VIPの上のエグゼクテクティブの人たちが賭けてるんですよ。”商売”か”遊び”か”女”か。」


ボディスーツの膨らんだおっぱいをぷるんっと揺らす。

揺れたおっぱいに目眩がしたのはきっと酒のせいじゃない。

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TalkerーVRカジノー 小川かこ @Ogawa_kako

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