第2話 キャラメイクから始めるレベル1生活
おや、どこかで耳にしたことのあるフレーズの天の声が聞こえたような気が。
息すら止まるほどの劫火が波状に吹き寄せる。
現実に引き戻され、振り返ると。
地下殿堂のはるか天蓋にまで達する流禍を描いて突沸する溶岩奔流の中から、今まさにあらたなる巨大怪物が闇の新星となりて生まれいでようとしている最中であった。こわすぎ。ちょっと何よアレあたしゃ聞いてないですけどォ!?
思わず目を疑った。いや別に俺は全然びびってないが!? しかしなぜか腹底より生ぬるい恐怖の圧が解放されたせいか、尻の割れ目がちょっぴりにゅるにゅるした。いやな予感と臭いが背筋をつたわる。冷や汗がたらり。お尻がぬるり。ヤダ何この感触……もしや……。
身の毛がよだつ。もしかして……ちびっ……
「アッカーン!」
露出狂女が俺の腕をつかんだ。ブリィ! やめえその衝撃と反動がもっとアカーーン!! 殿中よそれ臀中! 俺の
確かにいろいろアカンけどもそれはそれとしてオトナの事情でぐっとこらえ、俺はキッとケツの穴を閉めて露出狂女を、いや、エッチな(偽乳の)おねえさんをにらみつけた。
「さっきから肉風船パンチがばいんぼいん痛いんですけど」
つい本音がポロリする。偽乳ポロリどころか大開陳のおねえさんとくらべればカワイイものだ。
「そんなしょーもないこと後にしなさいよあーた何してんのよ逃げる気ここまで来て!? 今日しかチャンスはないのですわよ!」
「すいませんその今日が俺の命日になりそうなんで」
「うるさいもっと緊迫感を持ちなさいよ! さっきまでちゃんと勇者っぽかったでしょ! それよりなんかちょっと……臭わない?」
エッチな(偽乳の)おねえさんは眉間の皺を微妙にくいと寄せた。けげんな感じで鼻をつまむ。いや明らかに嫌そうな顔をしないでくれませんかねじゃないと頭が……じゃなくて腹がピーーギュルルルルル。
「そんなことより教えてください。何でいきなりこんなことになってるんすけ」
「空気読んで察しろやテメー」
お姉さんが真顔でピリピリと凄む。ヒッこわ。怖すぎなんですけどこのひと。もらしてる場合ではない。
「ハイ」
「あんた倒せる? あいつ」
「あいつって誰」
「そう。魔王オーマ・ダレヤ」
微妙に会話がかみ合っていないがお姉さんの頬に薄昏い情炎の影がさした。口の端があわくつりあがる。悪い顔だ。
「……今はその第2形態よ」
おねえさんは何やら奇妙な手つきで人差し指を空中でカチカチした。なにやってんのこの人。何か印を結ぶ的な? それにしては何もない空中にある透明な板っぽいものに手を滑らせ、指だけをカチカチ連打させている。
「ッ……どういうこと……? これって……まさか……」
お姉さんはひとりで息を呑んだ。がくぜんと俺を見下ろす。えっ何何何その誘い受けまるだしのセリフ。素人質問で悪いですけど何か言いたいことがあるなら先に要件と結論から言ってくれませんかねえ簡潔に。何かといえばすぐそうやって責任逃れするっていうか、はっきり言わないで相手から言わせよう言わせようとするんだから。そんなまどろっこしいことやってる場合ですかね右手をご覧ください変身シーンを静かに礼儀正しく待つ悪の秘密結社怪人みたいに上昇しつつガァー! って大見得を切る出現シーンをループしながら魔王が待ってくれてるじゃないですか!?
「こんなことまで忘れちゃってる……!」
俺が聞き返さないので仕方なくお姉さんはいかにも台本っぽい続きをつぶやく。
ほう、なるほど。そういうことか。
自分のことはきれいさっぱりポカンと忘れて何にも覚えてないけどもたぶんそれぐらいなら俺も理解できる。世界は広いのだし、もしかしたら今のと似たような何かそれっぽいメタ展開を知っている人がいるかもしれないが、コレは現代における常識ですのでねえハッハッハ常識ですよ常識これしきのことは。
「で、何を」
分からないことは素直に分からないと認める、すなわち無知の知。
「レベル1なの。あなたの《
さっぱり意味が分からない。
ガァァァ! 魔王オーマ・ダレヤ第2形態があごよりデカい口を開いて全世界震撼の咆哮を放つ。地面が揺れ動く。がれきが降る。岩場が割れて深い亀裂が走る。大山鳴動俺いっぴき。
全俺が泣いた。何言ってんだコイツ。
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