魔王と最終決戦真っ最中ですが記憶喪失になりました
上原 友里@男装メガネっ子元帥
第1話 最終決戦
ビッグバンバースト! 咆哮とともに5000兆度の炎が顔面にふきつける。肉を削ぎ取られたような焼けつく痛みが顔面をごっそり持って逝った。あああtっちちちちちt!
俺はヤツの攻撃をまともに横っ面へ受けて吹っ飛んだ。壁にぶつかりクレーター状の陥没穴をあけ、ぶち抜いて控えの間でもんどりうつ。
全身をジャギーにすりおろされる激痛が貼りついた。いったぁい!!
熱風で眼をあけられない。ちょっといきなりヒドイんじゃない!?
「ぐふッ……!」
両手に握った聖剣に祈りを込めて横薙ぎに振った。灼熱のブレスをまっぷたつに斬り払う。
剣から渦を巻く光がはしって5000兆度の炎を吹き飛ばした。オラオラよしよしよくやった俺エ!
「大丈夫、アッカーン!?」
僧侶のウラーギルが駆け寄ってきた。顔を隠す長い黒髪にメガネに黒衣、髑髏の杖を携える。分厚い二つの胸肉鎧が上下互い違いにばいんぼいん揺れてやけに走りづらそうだ。上がばいんで下がぼいん。
よろめく俺の腕を取って立ち上がらせようとする。
「お前は下がってろ。奴の炎にやられちまうぜ」
俺をのぞき込む必死のまなざしを振りはらった。体勢を立て直す。邪魔すんなよ敵が見えねえだろがよ。
「でもっ!」
「俺にはこいつがある」
聖剣を握って片目をつぶり、かるくかたをすくめてみせる。
ウラーギルのダブル肉胸甲はどんな物理パンチをも優しくぱっふぱふと飲みこんで受け止めるウルトララッキーパワーガード付だ。実にうらやましい装備だが、残念ながら俺にはちょっとばかり不向きだったようで、今朝、出立前にちょっと借りて装備してみたところいきなり横道に引きずり込まれて襲われそうになり、やむなく撃退して突き出そうとしたところなぜか逆に俺が衛兵に取り囲まれ職務質問され問答無用で営倉に叩き込まれてしまった。このロシュツキョウめ! とか怒鳴られていたがあいにく俺はまだロシュツなる領地をいただく
そんな誤解を解くのに半日以上もかかってしまう失態。やはりサイズが合わない装備をむりやりつけるべきではない。
「わ、分かったわアッカーン。忘れて」
ウラーギルが後方支援へと戻るのを確認し、俺は頬についたすすをぬぐった。そういやさっき致命傷を負ったような気がするが気がするだけできっと気のせいだ。ウッなぜか頭痛が痛い。けがの後遺症だろうか。
魔王のはばたきにあおられて俺はよろめいた。奴の咆哮が地下洞窟を灼熱と毒ガスの溶岩地獄へと変貌させてゆく。
足元はのこぎり歯のように鋭利な溶岩のガレ場。ともすれば足ごと踏み抜いてしまいそうだ。さっきが俺を倒す最後のチャンスだったな魔王。惜しいことをしたな。歯ぎしりしてやがるぜ。
「今こそ年貢の納め時よ魔王ダレヤ!! アッカーン、ヤツはもうボロボロよ、この隙に殺っちまいなあ!」
俺のセリフを後ろからかっさらってウラギールが叫ぶ。いやそれ俺の決め台詞だが? いやそれも気のせいか。気を取り直す。さっきから気のせいが多いな。いやいや注視注視! 敵の動きに注視!
「魔王オーマ・ダレヤ! 今こそ雌雄を決するとき!!!!」
俺は聖剣をふりかざす。無数のきよらかな光点が俺の手元に収斂し、まばゆく刀身を光らせてゆく。刻まれた聖なる名は勇者のあかし。
世界に仇なす魔王を討ち果たせ、勇者——
光がますます強まる。もはや直視できず魔王オーマ・ダレヤは浄化の苦悶に長い竜の首をうねらせて身をよじった。絶叫する。大地が揺れた。溶岩湖が沸騰して波打つ。
魔王の姿が白くちりぢりにくずれてゆく。
俺は薄れゆく意識の下、聖剣に込められた歴代の勇者の魂がともに肩を並べて構える切っ先のかがやきを見た。誰よあんたたち? 問いかける俺に声が応える。
ともに声を合わせよ、我らが遺志を継ぐべき剣士よ——今こそ我らとともに勇名をかかげるのだ、勇者——
そんな声を無視して俺は最終奥義を放つ。史上最高強度剣奥義! すべてを消し去る超新星の光、スーパーノヴァ・ホワイトバース……
「えっとトォオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!……?」
スンと光が収まった。えっと? なんかいまさっきまでイイ感じだった気が。
俺、今、何て言おうとしてましたっけ?
ほっぺたをポリポリした。自分でもちょっとよく分からない。眼の前にはローストされた変なでっかい丸焼き。何か暗いし臭いし変な音もする。焦げてる。中身が腐ってるのかもしれない。くっさ。
「アッカーン!!!」
露出狂の女が必死の形相で駆け寄ってくる。うわあロシュツキョウだ! ばいんぼいんだ! お前がアカン!
といいたいところをぐっと我慢した。あれはきっとおっぱい筋肉スーツというやつだ。つまりにせものだ。安心した。いや偽物なのかよ!
「どうしたのよ!? もしかして! あんた!?」
胸ぐらをつかまれてグイグイばいんぼいんされる。いやそんなにグイグイ来ないでバインボインほしい。バインボインビンタされて意識がバインボイン遠のいた。参っバインボインてしまう。サプライズ? というやつだろうか。
「そんな……嘘……こんなところで……!」
謎のロシュツキョウ女はようやく落ち着いたらしい。何やらブツブツわけのわからないことを言っている。むしろお前が大丈夫か。などと余裕の屁をこく暇は俺にはない。俺の顔面はたぶん真っ赤っ赤に腫れあがってぱんぱんになっているだろうからだ。何だこいつの胸は。丸出しの狂気。いや、凶器。女コワイ。胸コワイ。まんじゅうこわい。
呆然自失した俺の手からなんか光る金属の三角看板みたいなものがポトリと落ちた。やたら重たい音がする。めっちゃ重かったっぽい。すげえなこんなもの持てたんだ、俺。などと自画自賛する間もなく我に返る。
だいたい何でこんなことになっているのか。
さっぱり分からない。思い出せない。
ということは?
……全部、ド忘れした?
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