第6話シナリオ
「アンタなんかに何がわかるの?」
沙樹は、富吉にぶつけてしまったその発言を後悔していた。
(酷いこと、言っちゃった。とめきちくんは、唯一わたしに話しかけてくれる奇特な人だったのに)
(……わかってる。彼はわたしのこと心配して言ってくれたんだって)
(あの人、見かけによらず結構マトモな人なんだもの)
(わたしが「死ぬのが怖い」って言ったこと、からかわずにきいてくれたくらいなんだから)
(……でも、もう駄目なの)
自分を想って言ってくれたのだということがわかっていても、今更どうにもならないのだと、沙樹はどこか諦めていた。
(あーあぁ、また一人になっちゃうかな)
「ま、それも今更か」
部屋でひとりごちる沙樹のそんな呟きは、宙に浮かんで消えた。
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一方、富吉のほうも、失言という名の爆弾投下をしでかしてしまったことを後悔しており、お詫びも兼ねてもう一度、沙樹を誘ってみることにした。
絶対に無茶はさせないこと。沙樹がやりたくないことはやらないこと。
そう念押ししてから富吉がダメ元で勇気を出してみると、沙樹のほうもきまりが悪かったので、気まずそうにしながらもYESの返事をする。
約束当日の放課後、沙樹はまた突拍子もないことを言い出した。富吉行きつけのゲームセンターで、クレーンゲームを弄って遊んでいる最中に、ボソッと。だがそれを、富吉は聞き逃さなかった。
「誰でもない人になりたいな」
「へ?」
「わたし、誰でもない人になりたい。そうすれば、死ぬのを怖がらずに済むかもしれないじゃない?」
富吉にはその意味ははかり兼ねた。けれども、何か重要な意味でもあるように感じられた。
そう思ったのも束の間、それからそう間を空けずして、沙樹が発作で苦しみ始める。慌てて救急車を呼ぶ富吉。沙樹が搬送されている間も、富吉はただただ何もできずにいる自分に無力感でいっぱいだった。
病院で、到着した沙樹の母親に怒鳴られることを覚悟していた富吉だったが、彼女からは逆に感謝される。
(妙な親子だ)
そんなことを思いながら、集中治療室の前で、富吉はさきほどの沙樹の発言を反芻していたのだった。
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