第5話シナリオ

ある時、富吉は沙樹に、放課後どこかへ出掛けないかと誘ってみる。


「なぁ、明日の放課後、どっか行かねぇ? 考えてみたら、お前と遊んだことってないし」

「行かない」


 沙樹は一言で断る。まさかそんなにピシャリと言われるとは考えていなかった富吉は思わず面食らう。


「は? なんで。用事でもあんの?」

「用事っていうか……止められてるから」

「なんだよそれ」


 そこで初めて、富吉は沙樹が内部障害を抱えていることを知らされる。クラスメイトに爪弾きにされているのも、恐らくそれが原因で教師陣に贔屓されているように見えているせいだということも。他人事のはずなのに、何故だかそのことに妙に腹が立ってしまった富吉は、思ったままを口にしてしまう。


「病気ってこと、クラスの奴らにも言やいいじゃねぇか。そしたらセンコーどものことも誤解が解けて、つまんねぇこともされずに済むんじゃね?」


 沙樹は病気のことを公言していない。だからか、クラスメイトにいいように扱われても大して抵抗せず、相手はますますつけあがるという悪循環に陥っている。先日のトイレットペーパー事件が良い例だった。嫌がらせをしてくる相手のメインは女生徒たちだが、男子生徒だって無関係ではない。表立って何かすることこそないものの、女生徒たちの報復を恐れ、見てみぬ振りをしているのだ。

 富吉は多勢に無勢のその構図が面白くなかった。だからこそ進言したつもりだった。

 しかしそれは、沙樹にとっての地雷を踏みぬいてしまう言葉だったのだ。彼女は物凄い形相で富吉を睨みつけてきたかと思うと、


「言って? どうするの? 言ったところで『葬式には出てあげる』って言われるのがオチでしょ。アンタなんかに何がわかるの?」


 そう言い捨てて去ってしまった。


(……おいおい、マジかよ。女でこのオレに【アンタ】なんつったの、お前が初めてなんだぜ?)


 そんなことを思いながら、富吉は沙樹の去って行った方向をポカンと見つめることしかできないのだった。

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