第4話シナリオ

富吉が沙樹に構うようになって暫く。沙樹も始めのほうこそ、自分と関わることでの影響を懸念していたが、次第に諦め、その状況を受け入れるようになる。

 周囲では、沙樹が一匹狼の富吉を手懐けて、嫌がらせを受けないようにバックにつけるようになった、などとあらぬ噂が立てられるようになった。しかし、奇異の目で見られることに慣れている二人はどこ吹く風、大して気にせず日々を過ごす。

 富吉が何度指摘しても【とめきちくん】と呼ぶのをやめようとしない沙樹に、いつしか富吉も本名を呼んでもらうことは諦める。それだけでなく、


「ねぇ、あの雲、縫いぐるみの綿みたいじゃない?」


 と、雲を指差して発言したり、唐突に、


「とめきちくんは、何か野望はある?」


 などと尋ねてきたり、とにかく沙樹は、富吉にとって突拍子もないことを話す少女だった。中でも一番彼が面食らったのは、


「わたし、死ぬのが怖いっていつも思ってるんだぁ」


 と言われた時だった。その恐怖は誰もが心の奥底に抱えている普遍的なものかもしれないが、真面目な顔をして面と向かってそんなことを言ってきた人間なんて、彼の前には今まで一人もいなかったからだ。

 そんな沙樹の、どこかズレた発言の数々に、富吉はますます彼女に惹かれていく。彼女といると、飽きない。彼女となら、馴れ合いも悪くない。富吉はそんな風に感じるようになってきていた。

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