第3話シナリオ

トイレットペーパー事件から数日が経ったある日のこと。これまた気まぐれに登校した富吉は、久しぶりに自分のクラスの教室に顔を出してみることにした。そこで目にしたのは、それぞれ所属するグループで集まって、相も変わらずゲラゲラと馬鹿みたいに笑い声を上げている同い年のクラスメイトたち。うんざりする富吉が視線を移動させると、ふと一人の少女が目に留まる。一人だけ、誰とも群れずにポツンと自席に座っていたのは、先日初めて言葉を交わした、沙樹だった。


(アイツ、トレペ降らせてきたヤツ……同じクラスだったのか)


 なんとはなしに気にかかって、他にすることもなかった富吉は、徐に沙樹のもとへ向かう。名前でもきいてやるか、そんな軽い気持ちで近づいた富吉に、先に話しかけたのは意外にも沙樹のほうだった。


「……とめきちくん」


 そんな沙樹の呼びかけに、富吉は思わずガクンと力が抜ける。何をどう間違えたらそんな名前と勘違いするのか。


(見た目は頭良さそうな顔してんのに、漢字弱いのか?)


 そんな風に考えを巡らせながら、頭をガシガシと掻く富吉。彼の困惑した時の癖だった。


「……俺は【とめきち】じゃねぇ。トミヨシだ」


 訂正するも、沙樹がその後富吉のことを正しい名前で呼ぶことはなかった。だが、かえってそんなところが富吉の気を引き、彼はその後、何かと沙樹を構うようになる。

 たとえば、朝や帰りのHR前。時間さえあれば、富吉は沙樹の席の近くへ出向いた。富吉を恐れる沙樹の席周辺のクラスメイトは、富吉が現れるとサッと自席を離れる。そこを我が物顔でどっかと座り、沙樹に話しかける富吉。

たとえば、昼休み。それまでの授業をサボっていた富吉は、チャイムが鳴るとどこからともなく現れ、沙樹と一緒に昼食を摂るようになった。

たとえば、珍しく富吉が参加していた授業の調べ物学習で、二人組を作らなくてはならない時。誰もが避ける沙樹のもとへ、唯一富吉だけが近づいてペアに誘った。

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