第2話シナリオ

とある平日の昼休み。トイレ掃除の当番に当たっていた沙樹は、同じ当番のクラスメイトに、大量のトイレットペーパーを今いる東校舎から反対側の西校舎まで、一度に一人で運ぶよう嫌がらせを受けていた。両腕にトイレットペーパーの山を抱え、よろよろと廊下を進む沙樹。


「あっ」


 なんとか階段までは辿り着くものの、山積みのトイレットペーパーで下が良く見えないせいで、踊り場で足を踏み外し、山から一つ、また一つと、腕の中のトイレットペーパーを落としていってしまう。使いやすいように包み紙が剥がされて剥き出しの状態のそれは、とどまることを知らずにコロコロと尾を伸ばしながらどんどん落ちていってしまう。


(……カッコわる)


 周囲にいる生徒たちは、沙樹が嫌がらせを受けていると知ってか知らずか、冷たい視線をくれるだけで、無関心を決め込んでいる。思わずため息をつきかけたその時、沙樹はもっとマズい状況に気がついてしまう。奇しくもたまたま登校していた富吉が階下を通りかかったのだ。


(あれは確か同じクラスの不良って噂の……と……なんとかくん)


 転がっていたトイレットペーパーの一つが、彼に向っている。


(うわ、最悪。どうしよう)


 怒鳴りながら文句を言われる未来を覚悟する沙樹。しかし、富吉は一つトイレットペーパーを拾うと、沙樹のいる踊り場へと視線を向ける。沙樹が一人でそこへ立っていることに気づくと、彼は思わず眉を顰める。


「コレ、アンタ一人で?」

「……うん」


 静かな声音で話し掛けられたことに驚く沙樹。更に驚くことに、彼はズボンのポケットに突っ込んでいた手を出して、ヒョイヒョイと他のトイレットペーパーも拾っていってくれた。けれども、これは沙樹への罰ゲーム。永遠に沙樹が勝者になることの無い、クラスメイトの暇つぶしの余興なのだ。富吉が沙樹を助けることで、富吉にも何か害が及ぶかもしれないと沙樹は危惧した。


「貴方も、わたしに関わってるとやらされるよ」

「……関係ねぇな」

「……え?」

「オレはあんま学校来ねぇかんな。アンタがどんな奴かなんて噂、知らねぇし」


(……ふーん。変な人)


 この時初めて、二人はお互いをきちんと認識した。

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